国際標準化活動に関する有識者座談会 実施報告
◇ 開催日時:2023年4月7日(金)15時~17時 (※ご所属などは開催日のものです)◇ 場 所 :一般社団法人 電気学会 会議室
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概要
テーマ1:「国際標準化活動の意義や重要性」
テーマ2「国際標準化活動に携わることの魅力・面白さ」
テーマ3「産・学・官それぞれでの取り組み状況」
テーマ4「更なる活動推進に向けた課題は?/成功事例・失敗事例から得られる示唆」
テーマ5「電気学会や電気規格調査会が今後取り組むべきこと」
参考資料
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【概要】
国際標準化活動における国際的な競争が激しくなる中、引き続き日本が国際社会においてプレゼンスを維持し拡大するためには、オールジャパン体制で、産学官が連携して、国際標準化活動を推進していくことが求められています。産学官それぞれの立場で国際標準の推進に携われている方々から、これまでの経験や知見等を踏まえたご意見を伺うことを通じて、国際標準化活動の更なる推進に向けた示唆を得ることを目的とし座談会を開催しました。
【勝野会長挨拶】
本日は、皆様大変お忙しい中、お集まりいただき、心より感謝申し上げます。
また、座談会開催にあたり、ご尽力いただいた電気規格調査会や電気学会事務局の関係者の皆様にも感謝申し上げます。電気学会での講演や内閣府のGX実行会議等の機会を捉え、私からも発信させて頂いているように、カーボンニュートラルの実現においては、経済成長との両立をしっかり図っていく必要があると思います。そのためには、技術者・研究者の連携の『場』(プラットフォーム)を強化すること、そして、オールジャパン体制や海外との連携が重要だと考えております。そのスタートにあたっては、社会~アカデミア~企業に至るまで、意識の変容が極めて大事だと思います。
本日の座談会は、まさにそのようなことを議論するにふさわしい方々にお集まりいただいたと思っており、今後の取組みに向けた一つの“きっかけ”となるのではないかと期待するところです。電気学会としましても、多くの学会員の貢献のもと、電気規格調査会を中心に様々な活動を行ってまいりましたが、国際標準化の更なる推進に向け、今後も学会としての役割をしっかりと果たして参りたいと思っておりますので、そういった点についても、有識者の方々からの忌憚のないご意見・アドバイスを頂戴できれば幸いです。本日は、よろしくお願いいたします。
座談会
【出席者(敬称略)】<司会>
髙木喜久雄 | 東芝エネルギーシステムズ株式会社 グリッド・ソリューション事業部 技監 専門:電力流通システム、電力用パワエレ応用システム 略歴:2010年 スマートグリッド統括推進部長、2013年 電力流通システム技師長、2015年 直流・蓄電池ソリューション技師長、2016年 配電・変電システム技師長、2017年 電力流通システム事業部技監より現職。 電気学会 フェロー。電気学会 電気規格調査会副会長。 |
武重竜男 | 経済産業省 産業技術環境局 国際電気標準課長 略歴:東京工業大学工学部卒業(1997年)、法政大学法学部卒業(2003年)、米国ワシントン大学ロースクール修了LL.M.(2008年)、米国弁理士(Patent Agent)試験合格(2009年)。1997年に特許庁に入庁し、化学系の審査官・審判官として特許審査・審判に従事しつつ、「先使用権制度ガイドライン」や「知財戦略事例集」の執筆、特許審査ハイウェイの国際展開(PCT-PPH開始)など様々な知財政策に関わる。2018年から東京工業大学に出向し、特任教授、知的財産部門長、ベンチャー育成・地域連携部門長、産学連携副本部長。2022年7月から現職。 |
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日髙邦彦 | 東京大学名誉教授、東京電機大学大学院工学研究科特別専任教授 専門:高電圧工学および放電現象に関する研究 1976 年東京大学工学部電気工学科卒業,1981年同大学大学院電気工学専門博士課程修了、工学博士。防衛大学校助手、東京工業大学助手、東京大学講師、助教授、教授 を経て、現在、東京大学名誉教授、東京電機大学大学院工学研究科特別専任教授。 規格関係:経済産業省 日本工業標準調査会(JISC)基本政策部会 部会長、総務省情報通信審議会ITU-T部会 委員、電気学会電気規格調査会 UHV国際標準化委員会 委員長、同 絶縁協調標準化委員会 委員長、IEC TC99, TC109, TC122国内委員会 委員長、日本電気技術規格委員会(JESC) 委員長等を歴任ないし現在も担当。総理大臣賞、経済産業省大臣賞 電気学会元会長、電気学会フェロー、IEEEフェロー |
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大崎博之 | 東京大学 大学院新領域創成科学研究科先端エネルギー工学専攻 教授 専門:リニアドライブ・磁気浮上技術の研究,超電導応用機器の研究 略歴:1988年 東京大学 大学院工学系研究科電気工学専門課程博士課程修了(工学博士)、同年 同大学工学部電気工学科助手,2004年より現職。 規格関係:IEC/TC77 前国際議長、元日本産業標準調査会委員、現在 日本電気技術規格委員会委員長代理,電気用品調査委員会委員長 2010年工業標準化事業表彰 経済産業大臣賞、2018年トーマスエジソン賞 電気学会元会長、電気学会フェロー、IEEEフェロー |
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比嘉正人 | 株式会社日立製作所 グローバル知的財産統括本部 知財イノベーション本部 担当本部長 弁理士 略歴:1997年 株式会社日立製作所入社。2000年弁理士試験合格。特許取得業務、戦略立案、係争対策等種々の知財業務を経験。2017年 日立アメリカへ出向し、海外における知財マネジメント業務を経験。2019年 日立製作所に復帰し、知的財産本部 知財戦略部部長として、コーポレート視点での知財戦略、特に知財中計の立案と実行を推進。2022年4月より現職。 |
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豊田充 | 東芝エネルギーシステムズ株式会社 1978年京都大学工学研究科修了。(株)東芝入社。ガス絶縁開閉装置、ガス遮断器の開発設計に従事。 規格関係:IEC TC17/SC17A国内委員長。IEC TC120国際副幹事。工学博士(東工大)。工業標準化活動で、経済産業大臣賞、IEC1906賞受賞。 電気学会フェロー |
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高尾登 | 東京電力ホールディングス株式会社 経営技術戦略研究所 技術開発部 次世代電力インフラエリア エリアリーダー 略歴:1994年東京電力株式会社入社。2006年より,東京電力グループの国際標準化活動に従事。国際標準化を推進する傍ら,自らもエキスパートとしてIECに参加。日本提案によるTC123の設立,SC8Cの設立に尽力。 規格関係:IEC TC3,TC8,TC42,TC122,TC123等,数々の国内委員会幹事を務め,現在IEC TC3国内委員長。IEC/TC123国際副幹事,ACTAD日本代表委員。IEC 1906賞受賞。日本産業標準調査会臨時委員。 電気学会上級会員 |
【補足説明】
- TC3
- ドキュメンテーション、図記号及び技術情報の表現
- TC8
- 電力供給に関わるシステムアスペクト
- TC17
- 開閉装置
- TC42
- 高電圧・大電流試験技術
- TC77
- 電磁両立性
- TC120
- 電気エネルギー貯蔵システム
- TC122
- UHV(Ultra High Voltage)交流送電システム
- TC123
- 電力流通設備のアセットマネジメント
- ACTAD
- 送配電諮問委員会 (Advisory Committee on Electricity Transmission and Distribution)
座談会の様子 出席者のみなさん
<司会>
本日は、産・学・官において規格の最前線でご活躍のみなさまにご参加いただいています。まずは初めに「国際標準化活動の意義や重要性」についてお話いただきます。
テーマ1:「国際標準化活動の意義や重要性」
<武重>標準化の対象分野が、従来のねじ・ばねといった製品の性能や評価方法から、最近はマネジメント分野、例えば品質管理、環境保全、情報セキュリティ、さらには社会的責任といったものまで広がり、国際標準で作られてきています。また、観光などのサービス分野、EV充電システムやスマートシティなどの社会システムも対象になっています。
そうした中、グローバル企業が標準化を市場創出・市場獲得の戦略的ツールとして活用してきています。経済産業省としては、研究開発段階から標準化を意識するよう、各企業にお願いしています。製品やサービスが社会に受け入れられる状況を作り込む、つまりルール・標準規格を研究成果に合致させることは、社会実装の確度を高める効果があります。
<日髙>
国際標準化の重要性は誰しも理解していますが、身近に感じておらず誰かがやってくれるものと思っているのが実情と考えます。標準化といっても幅が広いので、どこをターゲットとするか考える必要があります。標準には、IEC、ISOといったデジュール標準以外に、フォーラム標準やデファクト標準などもあります。その中で電気学会はデジュール標準を対象として取り組んでいます。また、国内の規格を国際規格に整合していく必要があり、国内規格に携わる人も国際標準を意識しなければいけないと考えています。
<大崎>
国際標準化は日本の輸出力強化につながることになります。日本の製品の技術を国際規格等に組み込んでいく、あるいは国際標準に合致した製品を作っていくことが必要です。一方、国内で国際標準化に関わる議論をするとき、国内市場で活動している企業と国際展開をしている企業の間で合意をとろうとすると難しい場合があります。また、例えば電気用品においては、国際整合した技術基準と従来からのわが国独自の技術基準があり、段階的に国際整合化した技術基準に一本化していく必要がありますが、市場の状況や製品の安全性を考えて着実に進めていくことが大事です。また、国際標準化においては、人、資金などのリソースに限りがありますので、国全体や企業の中で優先順位やメリハリを付けて取り組んでいくことも大事なポイントです。
<比嘉>
国際標準化を知的財産という観点でお話をします。一般的に、特許を取得しその技術実施を独占するということが行われています。一方、独占することが社会システムではそぐわないこともあり得ます。したがって、社会システムのように、みんなで一緒にやることは標準化でオープンに行い、一方企業として守るところは守る、というところを考える必要があります。また、企業では研究開発の最初の段階でオープン・クローズをよく検討しておくことが重要であります。国際標準化は知財戦略と一体で考えていくべきものと考えます。
<高尾>
標準化の重要性は疑う余地がありません。特に日本の場合は、官が標準を決めているという点で、権威を感じます。たとえば、磁界の影響などを(EMS:Electromagnetic Susceptibility)お客さまに説明するようなシーンでは、会社の基準をご説明するよりは国際標準規格によって決まっている内容でご説明することで説得性が高まるということがあります。
電力に関していえばどこの国も同じようなシステムでありますが、細かい言い方や考え方が違い誤解を生じたりすることがあります。相互理解のために国際規格は必要であると感じる点です。
<豊田>
今まで大所高所からの話でしたが、私は自分の製品をどうするという実働部隊の立場でお話をします。規格に書かれているrequirement(要求事項)やrecommendation(勧告)を読んでも具体的な判断や解釈が難しいことがあります。規格を作成するところに携わっていろいろな議論をしていると、欧州の考え方やマーケットの事情が分かります。さらにいえば妥協点が分かります。表面だけでない中身のことがわかると、自分たちの製品をどう作るか、お客様にどう説明するのが正しいかということに役立ちます。
<司会>
ありがとうございました。ここで少し電気学会の標準化活動についてご紹介します。電気学会の中に電気規格調査会があり、ここには10の部会があり、各部会にはさらに委員会があり、約2000名のエキスパートがいろいろな規格にタッチされています。その中で国際規格に対する考え方は日髙先生おっしゃられたように、デジュール規格としてのIECを適切な内容に制定することです。その規格をチェックし、なるべく国内のJECに整合させるという活動を行っています。国際標準化活動として皆さんの活動は、ボランティア精神に基づいた活動となっています。(1)
<武重>
せっかく今、電気学会の話がありましたので、ご紹介をしますと、現在、IECは経済産業省のJISCにおいて事務局を担っていますけれども、戦前にもともとIECが立ち上がったのは、電気学会の中にある日本電気工藝委員会、つまり今の電気規格調査会が事務局になっておられたということ、電気学会がIECの代表であった、ということをぜひ電気学会の会員の方にご理解いただければと思います(1)。
<司会>
実は、なぜ今、我々電気規格調査会が電気学会の下にいるのかということも含めて、だんだん歴史の背景がわからなくなってきています。こういうことを今一度、記憶されている方がいる間に整理して、世の中に出す事は良いことなのかなぁと、話をしていただいているところであります。ありがとうございます。
テーマ2「国際標準化活動に携わることの魅力・面白さ」
<司会>それでは次のテーマ「国際標準化活動に携わる魅力と面白さ」に入りたいと思います。まずは日髙先生よろしくお願いします。
<日髙>
先ほど自己紹介で申し上げた通り、私はUHV、100万ボルト級の高電圧に携わってきました。ここには日本で1970年代から開発が進んだ日本オリジナルの技術が含まれています。ただ当時は世界標準になっていませんでした。技術開発に携わった皆さんが、「これを世界標準にしよう」という思いをもって、電気規格調査会の中に委員会を設置し活動してきました。
その中で感じた魅力・面白さが多数ありますが、私が特に強く感じているのは、自分達の技術が世界標準として採用されるという、ある種の達成感であったように思っています。参加した皆さんに実利があったかと言うとあまりないと思います。標準化に携わったから給料が上がったとか職位が上がったとか、大学で言えば准教授が教授になるとかそういう実利は多分ないと想像しています。もちろん企業としては、日本を含む海外でその製品が使われるという企業としての実利があることは言うまでもありませんが、個人としてはある種の達成感を魅力として感じていた程度ではないかと思った次第です。
何らかの残る形で達成感を表すということでいえば、例えば、電気規格調査会の表彰や経済産業省大臣賞などがあります。栄誉を受けるということが全て標準化活動の結末に当てはまらないかもしれませんけれども、そういう魅力もあるというようなことを伝えて、頑張る皆さんの源になってくれればと思います。
<大崎>
自分自身が持っている知識や経験、能力を活かして、国際的な合意作りに参加できることが大きな魅力です。その中で企業や国の枠を超えて連携を図り、協力関係を築いていくことは、他の場面ではなかなか経験できません。標準化活動の国際的舞台で経験できた事は自分自身の為にもなりましたし、この経験をこれからに活かしていけると思っています。
ワーキンググループなどで国際規格等の原案を作成するプロセスは、その技術分野の専門家としての経験を活かせる場です。国内でももちろんそのような場がありますけれども、そこで専門家同士が議論することは、結果として個人個人のつながりが強化されていって、その場を離れても個人的な付き合いが深まる場合もあります。そういった経験を積むことによって国際的な感覚を自分の中で磨いていく大事な場になると思っています。国際標準活動に関わる方にはエキスパートとしてワーキンググループ等にぜひ参加していただきたいと思います。
<高尾>
個人的なつながりと言う面では、ある程度同じメンバーで仕事をします。国際標準とはいえ10人~20人ぐらいで仕事をします。そういう方々と一緒にお互いの考え方を伝えあったりします。やはり日本は割と新参者なので、「会社のためにならなければ」というちょっとギラギラしたところがあるのですが、欧米の方はちょっと宗教がかっているかもしれませんが、「国際社会に何とか貢献したい」とか、「なんとか教えてやろう」みたいな精神があって、懇切丁寧に説明される人や、教えていただける方が多い。人間味ある仕事だと思います。
それから、私は電力図記号のエキスパートとして、〇(まる)にサインカーブを描いて交流電源という図記号を規格にました。当たり前のことなのですけれども、「これは絶対に必要だ」と言う議論をして規格にしました。また、国内電力会社によってはオリジナルの機器があったりします。中部電力さんに活線端子という機器があってこの機器の記号を標準化しようとしたときがありました。この時、ドイツに「こんなもの(機器)は国際社会には受け入れられない」と言われました。物(機器)が受け入れられないから記号も受け入れられないということだったのです。その時に国際幹事と一緒に仕事をしていたので、「まぁまぁまぁ、世の中いろいろなもの(機器)があるので広く考えましょう。」ということで、少し形は変わりましたが、記号化できました。国際社会において自分が決めた内容が日本に逆輸入という事はちょっと嬉しいと思います。
<司会>
TC120で幹事国をしていて、そこで国と国との争いがあるのですが、苦労ばかりでなくきっと喜びもあるのではないかと言うことで、ぜひ豊田さんからもお願いします。
<豊田>
TC120の立ち上げ時からやっています。良い事はTC120に限らずですが、大崎先生や高尾さんがおっしゃったように、専門家同士でいろいろ技術的な議論及び技術的じゃないTC議論を含めてやれますので、そういう意味で自己研鑽になりますし、レベルアップとか知見を深められます。また、face-to-faceですと、コーヒーブレイクもあれば、夜のレセプションなどあって、そういうところで、技術的な内容や規格の内容ばかりではない家族とか趣味の話をすると、親しい関係ができ、自分が言っていることをよりよく理解していただける。face-to-faceで良い関係が構築できていると、自分の会社や自分の国がこういう風にしたいと言う時に、比較的スムーズに話ができて、規格化になる可能性が高くなると言うメリットがありますし、そういうことができると嬉しいですね。
一方、オンラインですと、表面や言葉面だけを捉えて「それはいかん」とか「それはダメだ」とか反対になっちゃうということがあります。また、新しく入った人の名前は知っているけれども、直接顔合わせて話をしたことがない人を相手にしていると、ちょっと何かで引っかかったり揉めたりすると何ともならない、という難しいハンドリングが要求されます。
新しい委員会は古い委員会に比べると極めてそうしたことが多いです。例えば開閉装置などは古い委員会でもめ事は少ないのですが、TC120は市場的にも技術的にも成熟しておらず境界が確定していないところがありますので、他の技術委員会とかワーキングとかと活動が重複することが頻繁に起こります。そうすると「我々の所の領域に手を出すのか」と言うことになっちゃう。そこでもめるから調整とか調停とか話し合いをしなくなければいけない。制御、系統、蓄電池など、みんな引っかかってコンセンサスに労力がかかります。うまく落としどころが見つけられなくて、期限が来て成立しないと言うよろしくない場面もあります。幹事国としては大変です。
<武重>
みなさんのお話を伺うと、やはり興味深いですね。国際標準化に携わっている人の話は、それぞれに非常に面白い要素があります。今回、経済産業省が作成したパンフレット「標準化活動の功績とその足跡」をお配りしました。産業標準化事業表彰の受賞者の経験を掲載しています。ウェブサイトにも同様のものが掲載されていますのでぜひご覧いただければと思います。(2)
今お話があったように一筋縄ではいかない標準化までのストーリーが語られています。国際舞台での駆け引きは、一種のドラマのようなもので、その主人公になれることが国際標準化活動の醍醐味と思っています。
例えば、昨年度、内閣総理大臣賞を受賞されたIDECの藤田さんは経営層でありながら、標準化を非常に注力していただいた方で、その話がまた面白い。過去に失敗した経験から標準化活動をやるようになった。藤田さんが出ていって交渉していると相手が何を考えているのかがわかる。標準化活動を通じてマーケット動向が見えるし仲間作りもできる。さらに自分たちの商品が売れるようになる。標準化活動をツールとして、マーケティング戦略上これを利用していると言うこともできる。国際標準化活動は魅力的であり面白い分野だと思います。自分が直接行けないのが残念です。
<司会>
ありがとうございます。このテーマは若手参画のインセンティブとして、非常に重要なところだと思います。電気規格調査会は電気学会誌に電気規格調査会だよりというコーナーをいただいているのですが、これが非常に事務的なところが多い。今回、ご紹介いただいた経済産業省のホームページやこの冊子を拝見して「すごい」と思いました。さすがにここまではお金もかかるのでできませんが、今よりもう少し人間味のある内容のものを出していこうと考えて、方向を改める戦略を考えています。
これからご期待いただければと思います。またそのコーナーを使いたいと言うことがありましたらお分けしますのでよろしくお願いします。
テーマ3「産・学・官それぞれでの取り組み状況」
<司会>さて3つ目のテーマと言うことで、産学官それぞれの取り組み状況をお願いします。
<武重>
ここは少し固い話になって恐縮ですが、我々(官)として産業界の標準化を支援する取組の幾つかを紹介します。まず、標準化活動を推進する事業を実施しており、現時点の年度予算は約47億円です。具体的には、標準規格を開発し、国際機関へ提案するために必要な費用などとなります。電気学会さんが令和3年度以降受けていただいているものが2つありまして、「双方向系統連系電力変換装置に関する国際標準化」と「電気エネルギー貯蔵システム(EESS)の信頼性向上に関する国際標準化」です。前者の方は、当初3年で開発する予定を2年で仕上げていただいたと言うことで、非常に精力的に活動していただいた理解しています。さらに海外出張に行く旅費支援や、国内で国際会議を開催してするための費用支援をしています。
また、経済産業省主催で国際標準化交渉をリードできる人材を育成するための研修「ISO/IEC国際標準化人材育成講座(ヤングプロフェッショナルジャパンプログラム)」を2012年から実施しています。IECが主催する国際研修もあり、こちらは世界中から研修生が集まって行われています。さらに、経済産業省では、ルール形成戦略を経営戦略に組み込むため、企業の経営戦略人材を対象とした「ルール形成戦略研修」も昨年度に新設しました。
企業の方々には、標準化を経営や事業のためのツールとして戦略的に使っていただきたいです。それを実践するためには、やはり企業内に組織が必要です。標準化戦略をリードできる役員は重要と認識しており、CSO(Chief Standardization Officer)の設置を各企業に依頼しています。また、統合報告書に標準化活動を記載してくださいともお願いしています。こうした情報を投資家等のステークホルダが求めています。
<日髙>
私はJISC(日本工業標準調査会)の基本政策部会の部会長を仰せつかっています。JISCは標準化活動について、産官学の指令塔として活動をまとめて進めていく役割があります。その観点で、少し俯瞰した立場で申し上げます。
国は、標準化活動をどういう方向で進めていくのかという大きな政策の立案を行っています。また、国として国際会議の場で最終的に1票を投票することから、他国との揉め事があって調整の交渉が必要なときには、国が関与するバックアップ体制を整えています。産業界としては、自分たちの産業をどのように展開していくかということで、そのために標準化に関する要望を出そうとしています。大学の役割としては、国際標準化の各種活動に学識者の立場から参画し、自分たちの持っている知見を標準化に活かすということになろうかと思います。
国際標準化活動を行っている事例を紹介します(3)。
長岡技術科学大学では2002年よりシステム安全工学専攻コースにおいて、社会人キャリアアップコース「機械安全工学」の中で国際規格に適合する安全技術や安全認証に関する体系的な知識・実務能力を有する人材の育成を行ってきました。今後、この活動を一般の学生にも拡大していくとのことです。こういった活動は1つの雛形と考えます。
最後に、大学の教員としては、インセンティブをどう働かせるかが課題です。国際標準化活動が、研究・教育をメインとする大学での業績になかなか結びつかないという課題があるのも事実です。
<大崎>
私は学の立場でお話しします。基本的に日髙先生のお話と共通するのですが、学の立場から標準化活動に加わる場合、学術の専門家として加わっている場合と中立的立場の専門家として加わっている場合があります。それはそれぞれ意味を持ち、大事な役割を担っていると思っていますが、大学の研究者が標準化に関わることは、大学内での評価にほとんどつながらないという点において、容易ではありません。また、旅費の面では国際議長や国内委員長をやっていれば、国や電気学会から出していただける可能性は高くなるのですが、エキスパート活動では、研究と深いつながりがあればよいのですが、そうでない場合はなかなか旅費を工面するのが難しいですね。そうすると活動を躊躇することにもなります。国際会議に出席するエキスパート等への旅費支援についてはもう少し何とならないかと思っています。
あと教育面では、国際標準化というものを1つの科目として構成するのは難しいので、関連する科目の中で、特にその分野の専門家が自身の経験も含めて学生に紹介していただくのが良いと考えます。社会や産業、国際関係などを知るということは、学生にとって大変興味深いはずで、講義等のテーマになり得ると思います。ただし、標準化に詳しい方をうまく見つけられるかは、担当の先生の個人的関係に強く依存することになります。電気学会の中で、例えばパワエレ関係の分野では、大学の先生にも標準化活動に関係し,国内審議に関わっている先生も多いようです。学術的成果が比較的早く実用につながる分野では、大学の先生方も貢献できるところが大きいです。
あとは、後継者の問題があります。学の立場で、長年、標準化活動を行ってきて、誰かにバトンタッチをする時期になったときに、後継者を見つけるのが容易ではないことも多いと思います。一つの可能性としては、電気学会の技術委員会などの中で日頃からパイプを作っておいて、標準化活動に理解のある先生にバトンタッチできれば良いと思っています。
<司会>
テーマ3(それぞれの状況)と4(課題)とのボーダーがわからなくなってきました。(笑)総論から各論に入りつつあってよろしいと思っています。そこで、メーカーにいらっしゃる比嘉さんからお願いします。
<比嘉>
弊社では、ヘルスケア部門ですとか鉄道部門のように事業部門に直接関係するような標準化については事業部門に任せています。一方、社会システムのような、事業部門に収まらない事業部門を横断するテーマについては、サポートしないと動かないようなところがあって、各事業部門の知恵を他の事業部門へお伝えするなどして、コーポレートとして積極的に支援するようにしています。
日立グループ全体で、標準化活動を頑張った方に先ほど話がありましたCSOによる表彰を行っています。最近は成果を出した人だけでなく、これから頑張っていただく若手育成のためのインセンティブ(奨励賞)みたいなものもあります。さらに芽が出そうな若手については、各事業部門に対して積極的に国際標準化の場面へ連れてってくださいとお願いしています。リソースの面で厳しいことは重々承知ですけが、会議に出てその場で魅力を伝えていだくのが1番良いと考えています。そうしたバックエンドサポートを行っています。
<司会>
早速、CSO表彰は会社に持ち帰りたいと良いと思います。(笑)
<高尾>
以前は会社の標準化を総括する場所にいましたので旅費は悩ましい。そうした時に経営層に理解していただくことは大事で、説明や報告は意識的にPRみたいに実施していました。
かつては国内標準と国際標準にギャップがありましたので、このギャップを埋めるべく活動を行っていましたが、今日JECにしてもIECと99.4%一致しています。そうするとこれからはどこを標準にするかと言う戦略が重要になってきます。新規の提案もそうですし、あるいは他の国の提案から国内規格のどこを守るかきちんと見極めて規格をメンテナンス・維持するそういうステージになったと考えています。
後継者・後任についてはみなさんと同じように困っているところです。なかなか若い人には難しい部分があって、国内規格と国際規格が融合した段階において、対応していける人材をどうするかということが重要です。
テーマ4「更なる活動推進に向けた課題は?/成功事例・失敗事例から得られる示唆」
<司会>ありがとうございます。それでは、このままテーマ4に突入したいと思います。
<武重>
企業の方と話をすると、研究開発段階では国際標準化を考慮していないケースが多いです。「いまは研究段階なので、標準化は開発が終わった段階から考えたい」とおっしゃる。お願いして標準化戦略を考えてきていただくと、「ここはオープンです。ここはクローズです。」と説明されるのですが、事業計画にリンクした戦略になっていないことが多いです。標準化を活用したオープン戦略で市場を拡大しつつ、クローズ戦略で市場シェア獲得を優位に進める。国からの研究開発予算を使うときには、少なくとも、そうした戦略をしっかり組み込んでもらう必要があると考えています。
その中で成功事例としていくつか出していますけれども、先ほどから話の出ているUHVについては必ずしも最初から成功だったわけではなく、実は国際標準をとられてしまっていました。TBT(貿易の技術的障害:Technical Barriers to Trade)協定が発行する中で問題があると言うことで、この失敗をもとに110万ボルト規格を国際標準化にしました。研究開発したものが国際標準にしなくてはいけないという経験となったと思っています。ですから、こうした教訓を電気学会の方でも会員のみなさんに認識していただいて、戦略的に標準化を進めていただきたいと思います。
<日高>
これまで成功事例、失敗事例を含めてうまく広報できていなかったと思います。JISCの基本政策部会の資料で、「経営計画等において、ルール形成により、新たな市場を創造する構想を盛り込んでいる」と回答した企業は全体の3割弱でした。また、ルール形成に取り組むことで市場創出を目指した企業の売上伸び率は約4%で、日本企業全体の平均売上伸び率0.8%に対して、約5倍の伸び率であったというデータが示されました。この断面だけで評価して良いかどうかわかりませんが、こういうデータを示して企業の戦略を考えていただくことが良いのかと思います(3)。
内閣府知的財産戦略本部が2022年6月に「知的財産推進計画2022」を発表しました(4)。この中で科学技術イノベーションの早期社会実装のために政府が支援する研究開発事業において、民間事業者等が社会実装、国際競争戦略及び国際標準化戦略の明確な提示と、その達成に向けた取り組みへの企業経営層のコミットメントを求める、事業運営やフォローアップの仕組みを導入しています。 国が支援する研究開発事業については、国際標準戦略が必要であり、書いたことへのコミットが求められます。しかも採用された後、最初の申請書に書いてあったことをフォローアップする。こういう取り組みをやっているということをもっと知っていただくと標準化戦略に対する関心が高くなると思いました。そういう意味でもう少し広報活動が必要と考えます。
また、企業が標準化戦略を実施するための課題として、どこから手をつけたらいいのかわからないという場合もあるでしょうから、ある程度コンサルテーションが必要になります。さらにそのための人材が必要になるわけですが、そういう人材が自社になければ外部人材を活用せざるを得ません。このことを進めるためには、人材データベースなども必要になります。成功事例、失敗事例だけでなく、そうしたことも国では考えています。
<司会>
最近の研究は、国の研究事業において、CSOの名前をまず書くと言うとから始まって、その中に戦略を書かないといけない。ルーチンとして定着はしているのですが、そこに魂がこもっているかどうかということが今後は必要になってくることだと思います。
<大崎>
課題として人材の確保・育成があります。
私がTC77で活動をしていた時、欧米のIECで活躍されている方には一人でいろいろなTC (technical committee)やSC (subcommittee)で活躍している人が結構いました。自分の専門を活かしつつ、標準化活動でも企業の中でも幅広く活躍している人が多かったです。日本の中で標準化活動を強化する上で、企業としてどのように活動を支援してくのかを戦略的に考える必要があります。
また、広い意味で「活動の見える化」をして、若手を含めて様々な人に対して標準化活動のPRをしっかり行っていくことが大切です。これまでもいろいろやってきたと思いますけれども、さらに強化していくことが非常に大事です。
表彰制度は、国や電気学会でも設けられていますが、私が関わっているある分野の事例をご紹介します。IECとISOの両方で国際標準化が進められるその分野の国際標準化を日本として戦略的に推進するために、いわゆる現場の人たちではなく、企業で戦略を担う執行役員クラスの方や、標準化の専門の方々が加わって議論をしています。その中で年に1回、若手も含めて表彰を行っていて、表彰式は担当省の審議官や企業の執行役員クラスの方々も出席して行われます。若手としてもインセンティブになっている。これはあくまでも一例ですが、標準化活動している若手のモチベーションを上げる表彰等の活動は重要です。
<比嘉>
先ほどご説明した通り、コンセプチュアルな標準化活動は企業全体で行っています。一方、事業部門の標準化についてはその事業部門の判断ですが、やらないと判断するとそれまで培ってきた知見が無くなってしまいます。標準化の活動が実を結ぶには5年ほどはかかりますので、企業内で標準化を評価する際の難しさに繋がっていると思います。
それから、欧州と日本との違いについてです。個人的見解としては、欧州の方はまずコンセプトを考えて、細かい技術は考えない傾向が有り、そのあとに技術がついてくると考えます。日本は逆に技術がフィージブルじゃないと提案しません。ある意味正しいのですが、ちょっとコンサバすぎる。その辺の感覚の違いがあると思います。
<豊田>
いくつか成功事例も失敗事例も経験しています。UHVの開閉装置で抵抗付き断路器を規格に入れました。これは成功事例の一つと言えるのでご紹介します。もともと抵抗が付いた断路器の規格はありませんでした。
UHVでは、断路器のサージを抑えるために抵抗が有効だと言うことでこれを規格に入れたいと考えました。エキスパートがその規格をメンテナンスするチームに何度も提案したのですが、欧州勢は「そんなものは必要ない。」と全然相手にしてもらえないと言う状況が続いていました。そこで上部組織のアドバイザリーグループの議長がたまたま日本の人だったのでその人に話をして、そこを通して技術委員会からメンテナンスチームに言ってもらったのですが、「それはあくまでも推奨でしょう」と言われてこれも駄目でした。今度は、規格を変えるときにコメントが出せるということで、日本に加え、韓国と中国にお願いして3か国でコメントを出したのですがこれもまた駄目でした。
最後に、オールジャパンとして根回しをすることにしました。TCのプレナリー会議(総会)において、先ほどの韓国・中国に加えてカナダ・オランダに頼みました。あらかじめ私が提案するからその時に「そうだ、そうだと言ってくれ」と頼んでおきました。1カ国の提案では相手にされなかったのですが、4カ国となると、「これは必要なんじゃないか」とノンポリの国がその時の場の雰囲気に引っ張られ、決議を取ったところ、最終的に賛成多数でやっと入ったということがありました。仲間づくりは必要という事例です。仲間づくりと言うのも大事ですし、日本人がそうしたキーパーソンに入っていると言うことも大事です。オールジャパン体制でそういうところで言うと効果があります。
失敗した時はそういう根回しが不足していたと言うことです。いきなり言ってもなかなか仲間がいないので通らなかった。最近は特にリモート会議が多いので、そういう意味での仲間づくりがしにくい状況にあります。一緒にコーヒーを飲みながら、ご飯を食べながら、ということができません。
今後、コロナが終わって対面会議が増えて来ていますので、また仲間づくりが必要です。この仲間づくりには、エキスパートを含めた活動が必要です。先ほどもお話がありましたが、こうした活動を支える出張費用やレセプション費用、国内開催などの支援などが必要です。
<司会>
UHVの時のオールジャパン体制は好事例でした。一方、TC120はかなり苦労していますね。
<豊田>
TC120は電池のリサイクルで、ドイツと合わない。すでに電気自動車用の電池を電力系統用として使用することは市場も出来上がりつつあります。ドイツもそれはわかっています。しかし、彼らは欧州指令でそこの部分を作りつつあって、自分たちのルールとIECが異なることは避けたいので、日本の提案に対しては、いろいろと反対を唱えて進まない状況です。オールジャパンで取り組むとともに、これに賛同してくれる国を探す必要があります。
<司会>
UHVは規格化も出来て、最近の広域機関のマスタープランにも考慮されて良かったです。
<高尾>
先ほどお話のあったオープン・クローズといった戦略もある中で、何が重要かということについて、TC123を例にお話をします。TC123の設置については、我々も一歩前へ出ていくということで取り組みました。そうした中で、フランスとドイツの強力な反対にあいました。その時には、本提案に賛成であったイギリスに協力をお願いしました。そのうえで、オーストラリア、カナダへ行って、「イギリスが協力していただいている」と説明して、「イギリスがいうなら」ということで賛同を得ました。結果として、1票差でTC設置の承認を獲得しました。提案受け入れのために仲間を作ることが大事ということです。
こうした時に、自分たちが主張したい時だけ参加するのではだめで、日ごろからお手伝いする、持ちつ持たれつの関係を築くことが大切と考えます。継続して会議に出席し,資料・原案作成に協力したうえで,他国提案にも理解・協力する姿勢も大切と考えます。
<司会>
先ほど、規格活動を行っても偉くなったり、給料が上がったりしないという話がありました。これは、学会活動は個人名の入った論文等が残って履歴書に書けて、社会的に評価される成果が残りますが、規格活動ではどこに貢献したかが見えにくく、個人の評価への反映が難しいことが課題の1つと思います。
こうした点から、電気規格調査会では、個人への感謝状を、企業へお礼状を送付しています。これに加え功績賞・功労賞の表彰制度も行っていますが、年間最大で4名です。したがって2000名の方が携わっていて、4名ということでハードルが高いんです。もう少しその手前のところで表彰をしても良いと考えています。そういうものに価値があるようであれば検討したいと考えます。
<高尾>
数年前に感謝状をいただきました。会社宛てにお礼状もいただきました。意図はわかりますが、会社組織として活動を認識されることになっていないのが残念です。
<司会>
発行する側の想いが、受けて側に伝わっていないということだと考えます。先ほど申し上げたようにより論文の1件となるような、経歴になるような見える形での反映が必要ということですね。
テーマ5「電気学会や電気規格調査会が今後取り組むべきこと」
<司会>最後は電気学会や電気規格調査会が今後取り組むべきことです。
<武重>
電気学会はすでに電気規格調査会が、国際標準化活動に対して前向きに様々な活動をおこなっていただいており、そのことにつきまして感謝しております。他方で、先ほど、司会の高木さんから、標準規格の活動では個人の評価への反映が難しいという話がありました。その関係で、電気学会として取り組んでいただきたいことがあります。国際標準化活動そのものを論文として発表できるようにする、または論文と同じように評価される位置づけにしてもらう、そうしたことをお願いしたいです。
<司会>
最初のところは電気学会全体として検討させていただきます。
<日髙>
標準化活動について、黒子として貢献していることが、電気学会の中の会員に伝わっていないようです。電気学会の会員が2万名弱、電気規格調査会の活動に携わっている方が2000名です。そうすると約1割くらいの会員しか、知らないのではないでしょうか。まずは、電気規格調査会の活動が伝わるようにしたいと考えます。手始めに今回、この座談会が電気学会本誌に掲載されますが、こうしたことを継続的に行うとよいと考えます。また、これまでにも行っていたようですが、全国大会のシンポジウムなどで国際標準化活動をテーマとしたイベントを開催することなども考えられます。
表彰ということにつきましては、感謝状というのは受け取った側での扱いが難しいように思います。企業の中で評価できるような名称に変えてはどうでしょうか。
さらに、標準化活動が資格として認定できると良いと思います。例えば、電気学会にはIEEJプロフェッショナルがあります。これは履歴書に書けます。そういう意味で、標準化のエキスパート、プロフェッショナルを資格として書ける、さらに国家資格になると良いですね。JSA(日本規格協会)の中で資格認定をおこなっているようですけれども、電気学会の中でもそうしたことをできるとよいと考えます。
最後に、カーボンニュートラルという社会的課題に取り組んでいくわけですが、電気学会としてどう取り組むか考える必要があります。カーボンニュートラルのような世界的に大きな課題に戦略的に取り組む場合、国際標準化をうまく絡めていくことができるのではないかと考えています。
<司会>
資格認定の件は検討したいと思います。例えば、TCでのP(Participating)メンバー国のように、個人が国際会議に出席した回数などを判断対象とするなどは考えたいと思いました。
また、カーボンニュートラルに対する国際標準化という話がありましたが、組織が縦割り(例えば機器ごと)で行っているときは良かったのですが、横展開で行われる例えばTC129(電力設備用ロボット活用)といった国際標準に対しては、国内での対応が難しかったという事例がありました。間口が広いテーマに対して取り組む場合については、情報は把握したいが、頭にはなりたくないという動きがあります。ただし、そうした変化は事実でありますので、これからも対応していきたいと考えます。
<大崎>
電気学会の一般会員からみると、標準化活動が見えにくい、電気学会と電気規格調査会の関係がわかりにくいところがありますので、そうしたところの改善をしていくことが必要です。また、標準化活動を行っている委員会はそれぞれ多様な活動をしていますので、専門性の高い部分はそれぞれにお任せするとして、共通性のあるところについては学会全体で今まで以上に、サポートしていただきたいと考えます。人材育成や講習の面では、他の組織や日本規格協会等の協力も得ながら実施したり、それに加えて電気学会ならではの活動を進めたりしていければよいのではないでしょうか。
全国大会や部門大会では様々なシンポジウムが行われていますが、技術委員会と電気規格調査会の標準化委員会が連携したシンポジウムの開催をさらに進めてはどうでしょう。
<司会>
電気学会の認知度は1割という話がありました。私自身、電気規格調査会に身を置いて活動をおこなってきて、電気規格調査会を知るに至りました。発信力は大切だと思いました。
<比嘉>
カーボンニュートラルといった環境関係の社会課題の標準化活動への参画は企業や営利団体では対応しにくいということがあります。業種横断的な案件として行うような案件につきましては、国が積極的に旗を振ってくれると動きやすいのでなないかと考えます。
<豊田>
国や電気学会には支援をいただいています。旅費だけでなく、自国で開催する国際会議への支援があると良いと考えます。
TC120の活動において、会費を集めようという話があった際に、集めたお金を誰が管理するかという問題があり、断念しました。こうした管理機能の支援があると良いと考えます。国際会議の出張費用については、国の費用支援が年度予算であるため,実質5月半ば~1月の9か月間であるため現状支援されないような空白期間をなくしていただけると良いと思います。TC120の活動では、自動車関係の団体やバッテリーの関係の団体と交渉を行う。現在、問題が発生した時に個人的なつながりでおこなっているが、こうした引き受け団体間の連携強化をお願いしたい。
<司会>
電気学会としては、現在もすでにお金の補助を行っています。これを増やすことは難しい。お金のハンドリングといったことは検討したい。例えば、国際会議の国内会議でお金が足りないというときに電気学会が企業間にはいって授受することや、委員会毎に国際会議への出張旅費などが必要なら会費として集めてやり取りすることは検討できると思います。
武重課長にお聞きします。旅費の空白の件、さらにPメンバーのみならず規格を維持に対する支援、レセプションなどへの補助についてもご検討いただけませんでしょうか。
<武重>
委託事業の予算については、メリハリをつけて戦略的に重点配分することが必要となっています。そのために標準化による効果や価値を示していただきたいと考えています。また、旅費の空白期間の件は難しいというのが実情です。これについて、学会によっては、標準化活動にメリットを感じる企業さん、団体さんから会費を集めるなどして、ご対応いただいている場合もあるかと存じます。また、標準規格開発に関する国の事業では支出できない項目もありますので、そのあたりは、ご理解ください。
<高尾>
標準化活動に携わる人や企業への国などの顕彰に対して、電気学会が積極的に応援していただきたいというのが一つ。それから、企業としては標準化活動には相当なリソースを割いています。規格にはJECやJEACやJEAGなどがあり、さらに社内規格もあります。これにIECの規格があります。こうした多数ある規格の体系を考え、将来どのようにしていくのか、そうしたことが必要ではないでしょうか。
<司会>
おっしゃる通りいろいろな規格があります。企業としては過去の色々な背景の流れの中で事業直結やっているというのが実態でしょうか。
<司会>
さて、駆け足ではありましたが、皆様のご経験やお立場をベースとしたご説明やご議論を頂きましてありがとうございました。本日の内容を、電気規格調査会として今後の活動に活かしていきたいと思います。皆様、ありがとうございました。
【参考資料】
(1)「電気規格調査会(JEC)設立100周年を記念して」電気規格調査会
(2)経済産業省 産業標準化表彰
(3)日本産業標準調査会
(4)「知的財産推進計画2022」(内閣府)
座談会を終えて全員で記念撮影
【経済産業省 日本産業標準調査会 基本政策部会「取りまとめ」(日本型標準加速化モデル)の公表】
本座談会開催後ですが、2023年6月20日に経済産業省 日本産業標準調査会 基本政策部会「取りまとめ」(日本型標準加速化モデル)が公表されました。「取りまとめ」の趣旨:
市場創出に資する経営戦略上の標準化活動(戦略的活動)に積極的に取り組むことが、これまでの基盤的活動の維持に加えて重要である、との「日本型標準加速化モデル」が提示されました。「標準化」を通じて、消費者の利便性を高め、同時に優れた製品をグローバル市場に届けることが可能です。世界で展開されている標準化活動は、単なる規格づくりを超えたものになりつつあり、日本においても、人材育成や経営戦略の観点から、標準化活動を加速するべき時期に入っています。
こうした問題意識の下、日本の標準化活動の在るべき姿や課題・取組事項の整理を行うため、昨年4月より「日本産業標準調査会 基本政策部会」を開催し、2023年6月20日に、取りまとめが公表されました。
取りまとめの文書、付属資料は総て、下記のURLページからダウンロードできます。
https://www.meti.go.jp/policy/economy/hyojun-kijun/jisho/seisaku.html