支部長からのメッセージ (平成30年)

支部長

東京支部長 岡本 浩

電気学会 東京支部会員の皆さまへ

電気学会は「電気学術とその応用振興に向け知識を共有し将来の進歩拡充をはかる」ことを目的に130年前に設立されました。その後の電気学術と技術の進歩は目覚ましく,私達は電気の全くない社会を想像することすらできません。また,コンピューターの演算性能,データ貯蔵量,通信速度,分散型エネルギー貯蔵装置の性能など,電気技術を基礎にしたデバイスやシステムの性能は,今なお指数関数的な成長を続けており,その結果として社会の変化はますます加速しています。
 
一方,急速に進む少子・高齢化,温暖化と激甚化する自然災害,経年の進むインフラや貧困問題など,地球と地域社会の持続性維持に関わる課題が次々に深刻な問題として顕在化しており,様々な技術を健全に発展させながら,それらを適切に組み合わせて社会的課題を解決していくことが一層強く求められています。
 
例えば,省エネルギー・脱炭素化に向けて自動車等の動力源が内燃機関から電動機に置き換えられていくとすれば,未来のクルマやドローンは「電動ロボット」となり,自動運転やシェアリングのための認証・決済などの技術と組み合わされることで,安全で便利な生活の基盤となっていくでしょう。これと同時に未来のクルマやドローンは,「移動する蓄電池」にもなって,コミュニティのエネルギーの需給調整の手段としても期待されるのです。
 
このような社会は,いわゆるサイバーフィジカルシステム(CPS:実世界のデータをセンサーにより収集・観測し,サイバー空間の強力な演算性能によってデータの処理・分析を行い,その結果得られた価値を実世界に還元する複合システム)や政府が掲げるSociety 5.0として実現されていきます。CPSを動かすのは「情報」と「エネルギー」ですが,「電気」は大量の「情報」や「エネルギー」を極めて高効率に処理・変換したり光速で遠隔地まで伝送できるという利点を有しています。実世界とサイバー空間を横断して,あらゆるヒト・コト・モノを結びつけるという役割を通じて,「電気」はますます社会のイノベーションを創出する原動力として重要な位置を占めることになるでしょう。
 
ここで忘れてはならないことは,電気学会を構成する各部門の協調に留まらず,その外側に大きく広がる異分野との融合・連携が不可欠であるということです。今から100年以上前,オーストリアの経済学者シュンペーターが経済学上の概念として「イノベーション」という言葉を初めて用いましたが,その定義は生産手段や資源,労働力などをそれまでとは異なるやり方で「新結合(neue Kombination)」することでした。すなわち部門間の連携・融合,工学・金融・経済・法律・医療・農業などとの新たな組み合わせや融合こそがイノベーション創出の鍵となります。
 
これからの社会の変化をリードしていく電気学会会員の皆様には,是非,専門分野や自組織あるいは自らの殻を破って,大いに挑戦し成長し続けていただきたいと思います。東京支部はそのような志と意欲ある会員の皆様に,地域に密着した活動を通じて以下のような場を提供することで,山口会長が目標として掲げられた「広く社会に開かれたイノベーションのプラットフォーム」という役割を果たして参ります。支部活動への会員の皆様の主体的な参画や,その運営に関わる様々なご意見やアイディアをお待ちしています。
  • 学会と現場,学生と社会(企業,研究機関)が情報交流する東京支部カンファレンスの開催
  • 学会発表が初めての学生に研究発表の場を提供し,表彰(東京支部学生研究発表会優秀発表賞)を行う学生研究発表会の開催
  • 教育コンソーシアムの枠組みを活用した社会人向けセミナーの開催
  • 英語論文の書き方や発表方法をテーマにした技術英語講座の開催
  • 時宜にかなった話題を取り上げるトピック講座の開催
  • 電気学会の総力を挙げた調査研究活動の成果を紹介する講習会の開催
  • 高校生を対象とした見学会付き講習会の開催
  • 小中学生を対象とした実験工作教室の開催(サイエンススクエア)
  • 各支所(神奈川,千葉,埼玉,栃木,群馬,茨城,新潟,山梨,静岡東部)の特徴を生かした講演会,見学会,研究発表会,実験工作教室の開催
  • 電気工学を修めた優秀な学部学生の表彰(電気学会東京支部電気学術奨励賞・電気学術女性活動奨励賞)の実施
  • ホームページおよびメールマガジン等による行事案内や活動紹介の実施
  • 学生を対象にした,実学としての電気工学,先端の電気技術を学ぶ教育コンソーシアム(大学院レベル)の開催
  • 会員からの要望を迅速に収集するための学会活動推進員および学生員委員会委員との定期的な意見交換会の開催

平成30年6月