部門長のご挨拶

 

産官学の素敵な偶然を生む場を目指して

Aiming to be a Place Producing Serendipity Between Industry, Government and Academia

小坂卓

電気学会 産業応用部門 部門長
小坂 卓(名古屋工業大学)
Takashi Kosaka (Nagoya Inst. of Tech)
President, Industry Applications Society, IEEJ

このたび,産業応用部門長を拝命しました小坂でございます。皆様のご支援のもと,部門の一層の発展に貢献していく所存です。どうぞよろしくお願いいたします。
小職が電気学会の会員(学生員)となったのは丁度30年前の1994年です。当時,学会とは何かも深く考えず,指導教員の松井先生,竹下先生に薦められるがままに,電気関係学会東海支部連合大会で発表するため入会し,現在に至ります。改めて広辞苑で「学会」を引いてみますと,「学者相互の連絡,研究の促進,知識・情報の交換,学術の振興を図る協議など事業を遂行するために組織する団体」と出て参ります。この定義は決して間違いではないのですが,産業応用部門の現状を見ますと,国内外を問わず,産官学の研究者・技術者をはじめ,関係する様々なお立場の方々の相互連携を図る事業を遂行する団体となっています。小職自身の体験として,電気学会ならびに産業応用部門の数々の事業イベントを通じ,非常に多くの産学官の方々と偶然に出会い,知識・情報の交換を通じ,偶然に思いがけないアイデアを発見することもありました。小職はモータを研究していますので,例えば三次元磁気回路,圧粉磁心,磁力可変がそれに相当します。電気学会の産業応用部門に所属していればこそ,多くの人と出会い,思いがけないアイデアを発想することができたことに,改めて感謝申し上げる次第です。
一方で皆様ご存じかと思いますが,他の多くの学会がそうであるように,残念ながら電気学会も会員数減少の一途を辿っております。この背景には,新学術領域など学問分野や新事業など産業技術分野の多種多様化に応じた新たな学会への鞍替えなどに加え,根底には我が国の人口減少があるでしょう。国内学会を取り巻く環境ですので,この流れに抗うことは並大抵ではないと思います。しかし,偶然の出会い,そして偶然のアイデア発想の機会は,その場により多くの方々が参加されることで増えていくことを思えば,その場である電気学会として危惧すべき状況です。学会の参加者は必ずしも会員のみではございませんが,ひとつ朗報がございます。こと産業応用部門に限って言えば,2022年度末から2023年度末で会員数が5613名から5672名へと1%とはいえ増加に転じたのは明るい兆しです。増加要因について分析し,確固たるものとすべく役員会のメンバー一同で,会員数減少の流れに抗って参ります。
偶然の出会い,偶然のアイデア発想を生む場としての学会をより魅力的なものにするためには,その参加者の多様化を図ることも重要です。小職はモータを研究しておりますが,直近の取り巻く課題は電気工学主軸の電気・磁気に関する課題に加え,構造(機械強度)や熱(冷却),これら機械的性質に焦点を当てた材料が多くなってきています。これをご覧になられている多くの研究者・技術者の方も,同様の状況ではないでしょうか。産業応用部門も電気工学主軸分野に加え,関連する他の工学分野,学問分野との交流の場の提供を目指し,電気学会の他部門,そして他学会との連携をより積極的に進めて参ります。さらに,フレッシュな若手の方々,男性技術者とは異なる感性をお持ちの女性の方々に積極的にご参加いただけるように,若手エンジニアの会,女性エンジニアの会の活動支援を加速して参ります。産業応用部門ではこれらの施策以外にも多くの取り組みを進めて参りますが,詳しくは現総務企画担当役員の稲森真美子先生のご執筆された2024年6月号のニュースレターをご覧いただければ幸いです。
表題の「素敵な偶然」に対応する英語に,Serendipityという単語を使用しています。2022年7月に改正された電気学会の新たなグランドデザインに応じて策定した産業応用部門の中期アクションプランでも使用しています。個人的にはとある記事で拝見したこの語感に惹かれ,この挨拶で使用していることに,Serendipityを感じます。語源については是非一度辞書をご覧いただければと思いますが,意味は「思わぬ発見をする才能」などが出てきます。皆様のSerendipityを発揮していただく相応しい場としての産業応用部門を作り上げていきますので,ご支援・ご協力のほど,どうぞよろしくお願いいたします。