注目論文(リニアドライブ技術)

タイトル 磁石可動型リニア直流モータの電気的時定数
著者 水野 勉、岩垂光宏、小山勝巳、安西哲也、楡井雅巳、山田 一
巻号 電学論D, Vol.119, No.3, pp.327-332, 1999年
推薦理由 リニアモータは、高加減速で直線運動が可能な電磁アクチュエータである。そのなかでも磁石可動型リニアモータは、多種多様なものが実用化され、広く普及するに至っている。本論文では、リニアモータの応答性に大きく影響を及ぼす電気的時定数を、パーミアンス法を用いた解析的な手法により導出している。この手法は、有限要素法が発達、普及した現在においても、リニアモータ等の電磁アクチュエータの構造や推力発生メカニズムを理解するため、さらにはそれらの設計をするための重要な一手法である。本論文では、具体的な解析例をもとにその手法がわかりやすく記述されている。リニアモータ等の電磁アクチュエータの開発や研究を始めたいと考えている技術者や研究者に、ぜひ参考にしていただきたい一編であると考える。

タイトル 四相PM形ステッピングサーフェースモータの基本構造とその駆動方式
著者 海老原 大樹, 和多田 雅哉, 東野 浩幸
巻号 電学論D, Vol.111 No.8, pp.654-660, 1991年
推薦理由 平面2自由度のリニアモータは、サーフェスモータの名称で事業化に成功している。さまざまな多次元ドライブシステムの駆動原理の中で実用化されている数少ない実例である。本論文はダイレクトドライブ型サーフェスモータの動作原理と基本構造を提案し、その双方向制御システムを支える数学的展開を示すとともに、試作駆動試験の結果を示しており、サーフェスモータ普及の先駆けとなった、注目すべき論文である。

タイトル 同期型および誘導型磁気浮上回転モータの研究
著者 大石 哲男, 志村 誠治, 岡田 養二
巻号 電学論D, 115巻3号 pp. 342-347, 1995年
推薦理由

以前にも注目論文として紹介したべアリングレスモータの開発初期の論文を推薦する。

本論文は,任意のモータ磁極に対して±2極の磁界を重畳させることで半径方向力を発生できることを示し,永久磁石モータと誘導モータに対して実験的に検証したものである。

本論文ではギャップ磁束密度分布に注目して,モータトルクと半径方向力を導出しており,モータ理論に馴染みの薄い機械系の技術者にとっても分かりやすく記述されている。これからベアリングレスモータの研究開発に携わる技術者にぜひ参考にしていただきたい論文である。

タイトル 円筒形回転子をもつベアリングレスモータの無負荷時の半径方向の力発生原理
著者 千葉 明, 池田 紘一, 中村 福三, 泥堂 多積, 深尾 正, M. A. ラーマン
巻号 電学論D, Vol. 113, No. 4, pp. 539-547, 1993
推薦理由

磁気軸受と電動機の磁気回路を一体化したべアリングレスモータは,世界中から様々な種類のものや応用例が報告されており,現在でも多くの注目を集めている研究テーマの一つである。
本論文は,ベアリングレスモータの開発初期において,半径方向の力の発生原理を示したものである。ここで展開されている理論的な検討は,べアリングレスモータ研究の出発点であり続け,今後もその位置づけは変わらないと考えられる。そのため、ベアリングレスモータに携わる研究者にとって必読論文の一つである。


タイトル 人工心臓駆動用リニアモータの設計的考察
著者 山口 昌樹, 鹿野 快男, 小林 学, 山田 一
巻号 電学論D, Vol. 117, No. 5, pp. 603-608, 1997
推薦理由 リニアモータの応用先に医療分野がある。1990年代,リニアモータを人間の人工心臓の駆動源とすることが検討されていた。
本論文は,人間の心臓の代替えとなる埋込型完全人工心臓の駆動源用として,リニアモータの一種であるリニアステッピングモータ(論文中ではリニアパルスモータと記載)の設計手順について述べている。現在,有限要素法などによる磁界解析ソフトを用いて磁気回路をブラックボックスとして設計することが多いが,本論文では推力・速度などの駆動特性と鉄心寸法・コイルの巻数などの設計仕様との関係を数式で結び付けて設計しており,モータの本質を理解しながら設計することができる。
リニアモータに携わる研究者・設計者にとって必読論文の一つである。
【後日談】
本研究は実用化に至らなかったものの,ヤギを使った動物実験で血液循環に成功した。

タイトル 新都市交通用リニア誘導モータの設計について
著者 野中 作太郎, 樋口 剛
巻号 電学論D,Vol. 111, No. 7, pp. 555-562, 1991
推薦理由 鉄車輪と鉄レールで支持・案内し,リニア誘導モータで推進するリニア地下鉄は,車両の低床化や急こう配・急曲線の走行が可能で,建設コストが抑えられることから,現在では 6都市7路線で営業運転している。本論文では,リニア地下鉄が実用化された頃,新しいシステムであるがゆえに残された多くの課題に対して,今後の開発を見据えた推進用片側式 LIMの最適設計法および最適制御法について述べられている。空間高調波解析を用いた特性算定や,垂直力の影響を考慮した走行シミュレーションを用いて,必要となる設計パラメータの選定方法について示されている。無効電力の軽減策や,端効果を軽減するモータ長の選定といったLIM を設計する上で重要なポイントについて述べられている注目すべき論文である。

タイトル サーフェスモータの 2次元サーボコントロール
著者 海老原 大樹, 高橋 友勝, 和多田 雅哉
巻号 電学論D,Vol. 115, No. 9, pp. 1186-1191, 1995
推薦理由 現在,1台で多自由度の動きをする多自由度アクチュエータのうち,実用化されているのは、振動アクチュエータを除くと平面2自由度の動きを可能とするサーフェスモータだけである。筆者らはサーフェスモータ研究の黎明期に永久磁石を固定子,電磁石を可動子とするサーフェスモータの構造を提案し,各種特性を測定していた。本論文は,オープンループ制御に起因する脱調,停止精度の限界,振動発生の問題を解決するため、位置信号と速度信号をフィードバックする独自の2次元サーボシステムを提案した。さらに,試作したサーフェスモータに 2次元サーボシステムを実装して,2方向駆動実験により外乱にロバストなサーフェスモータ駆動が行えることを示し,サーフェスモータ実用化への道筋をつけた。

タイトル オブザーバによる不つり合い推定信号を利用した磁気軸受の制御について
著者 水野 毅, 樋口 敏郎
巻号 電学論D,Vol. 110, No. 8, pp. 917-924, 1990
推薦理由 不つり合い振動の問題は,危険速度通過やタッチダウン時の軸挙動等と並び,多くの研究がなされてきた,磁気軸受において切っても切れない課題の一つである。物理的に軸の不つり合いをなくすことは困難であり,製造時の対策としてはバランサの取り付け,軸の一部を削る等の作業を繰り返すことが少なくない。このため,製造現場において多くの時間と熟練の技術を要する。本論文は,制御からのアプローチを行ったものであり,オブザーバを用いた3つの制御手法が提案されている。オブザーバを用いた多くの文献では,状態空間モデルのまま数値解析を行い,結論に至るものが多いが,数値解析だけでは結果の物理的な意味がぼやけてしまう。一方,本論文では,無次元化された状態空間モデルから伝達関数に展開し,理論解析がなされている。このため,どのようなメカニズムで制御効果が表れているのかが,明確に表されている。また,本論文にある3つ手法の内の1つは,慣性主軸を中心とした回転を実現するものである。見かけ上,不つり合い自体をなくすものであり,機械的には不可能なことを実現している。さらに,軸回転数での定常交流振動に対して制御電流を0にする方法であり,電力も削減できる。このため,実用化例もあり,今日の発展に大きく貢献しているといえる。以上の点から,産業的にも学術的にも極めて有用な論文である。

タイトル 超電導磁石による車両の磁気浮上特性の研究
著者 斎藤 幸信,高野 一郎,松田 正治,荻原 宏康
巻号 電学論B,Vol. 74, No. 4, pp. 193-200, 1974
推薦理由 2027年東京-名古屋間のリニア開業を控え,磁気浮上だからこそ実現できた高速移動の原点を知る上で一読の価値がある。本稿ではリニアに採用されているループ軌道方式に加え,シート軌道方式による磁気浮上の実測結果が示されている。中心位置における浮上力・磁気ドラック(制動力)の評価に加え,位置ずれによる支持力の変化(論文中で言う横方向力)の結果が示されている。これらの結果はリニアモータの案内原理の基本特性そのものであり,本稿のみでリニアモータを振り返ることができる貴重な文献の一つである。

タイトル 常電導吸引式磁気浮上系のゼロパワー制御
著者 森下 明平, 小豆沢 照男
巻号 電学論D,Vol. 108, No. 5, pp. 447-454, 1988
推薦理由 電磁石で対象物を安定に浮上させる常電導吸引式磁気浮上システムにおいて,従来の電磁石を永久磁石と電磁石からなる磁石ユニットに置換え,電磁石励磁電流をゼロに収束させながら磁気浮上系の安定化が図れる制御手法を3つ示し,永久磁石に起因する吸引力のみで浮上対象物の磁気浮上が実現できることを実証している。本論文では,この磁気浮上制御手法を総称してゼロパワー制御と呼んでいる。ゼロパワー制御では電流がゼロに収束するため,車載の電池などで長時間車両を完全非接触で浮上状態に維持することができる。これにより,リニアモータによる非接触駆動システムとの組合せで,非接触の輸送・搬送システムを実現することを可能としており,注目すべき論文である。

タイトル リニア同期モータのディテントカを低減する設計法
著者 鳥居 粛, 吉村 武, 和多田 雅哉, 海老原 大樹
巻号 電学論D,Vol. 117, No. 4, pp. 487-492, 1997
推薦理由 旧来,LSM(リニア同期モータ)は高推力であるが,ディテント力の影響により位置決め精度が低いとされてきた。筆者らは,磁石の端と固定子歯との位置関係がディテント力に影響することに着目し,複数の磁石端を相互のディテント力を打ち消すように配置することで,可動子に作用するディテント力の総計を低減することを提案した。磁石の寸法と位置を調整するのみで,低減可能となる。本論文ではディテント力が,上記の機構によって発生することを解析によって裏付け,さらに実機実験によって,低減できることを検証した。高精度位置決め用途にも LSM を適用できることが明らかになった。

タイトル 永久磁石形リニア同期モータの静推力特性
著者 水野 勉, 山田 一
巻号 電学論D,Vol. 111, No. 6, pp. 482-488, 1991
推薦理由 現在,加工機や搬送機など産業用の様々な装置にリニア同期モータが使われている。当時,リニア誘導モータやリニアパルスモータの論文が多かった中,1991年に永久磁石を界磁とするリニア同期モータについて本論文が発表された。本論文は,パーミアンス法による静推力の表現式が述べられており,さらに有限要素法による計算結果との比較,試作機による検証が示されている。リニア同期モータを理解しようとする際,本論文はとても有用であるので,ここに推薦する。

タイトル 浮上コイル側壁配置磁気浮上方式の特性
著者 藤原 俊輔
巻号 電学論D,Vol. 108, No. 5, pp. 439-446, 1988
推薦理由 超電導磁気浮上式鉄道の浮上システムには,誘導反発方式を採用しているが,動力費や設備費の低減のため,走行抵抗である磁気抵抗を極力減らして,揚抗比(浮上力/抗力)を向上すことが求められていた。本論文は,浮上コイルを側壁に配置してヌルフラックス動作させる側壁配置磁気浮上方式を提案した。そして,軌道の単位長さあたりに使用する浮上コイル導体の量を同じにすると,当時宮崎実験線に採用されていた対向形コイル配置方式に比べて,揚抗比は4倍程度になることを示した。本提案に基づき,超電導磁気浮上式鉄道の浮上システムに,側壁配置磁気浮上方式が採用されることとなった注目すべき論文である