注目論文(メカトロニクス制御技術)

タイトル むだ時間を有するバイラテラル制御系のマスタ位置制御器設計法
著者 矢代 大祐, 日恵野 直, 弓場井 一裕, 駒田 諭
巻号 電学論D,2015年 135 巻 3 号 268-275
推薦理由

本論文は,バイラテラルシステムにおける時間遅れの安定性に及ぼす影響について論じており,制御性能と安定性を考慮した制御器設計が提案されている.提案される制御器は剛性に応じた可変ゲインのものであり,その有効性がシミュレーションおよび実験によって明らかにされている.

以上より,本論文はメカトロニクス技術における貢献が大きいため推薦論文として推薦する.

タイトル Advanced Motion Control for Precision Mechatronics: Control, Identification, and Learning of Complex Systems
著者 Tom Oomen
巻号 IEEJ Journal of Industry Applications, Vol.7, No.2, pp.127-140, 2018
推薦理由 位置決めシステムは,製造装置,計測器,情報記憶装置などの製品性能を左右するキーコンポーネントである。本論文では,特に精密な位置決め性能を求められるモーションコントロールシステムを対象として,これまでのモデル化方法,制御構造と補償器設計の考え方,設計手順に加え,具体的な事例を通して今後必要とされるであろう設計方法について解説されている。多くの参考文献を含めて,精密位置決め制御技術に関する内容を網羅的にカバーしており,制御系設計技術者にとって参考となる点が多く含まれていることから,注目論文として推薦する。

タイトル 超音波モータと線形ばねを有する腱駆動機構による力制御系の設計
著者 米本 大輝, 矢代 大祐, 弓場井 一裕, 駒田 諭
巻号 電学論D,2018 年 138 巻 4 号 p. 298-305
推薦理由  ロボットの環境適応性向上へのニーズは高まっており、バックドライバビリティを機構的に向上するSeries Elastic Actuatorが世界的に注目されている。本研究は腱駆動機構の力制御という難易度の高い課題において超音波モータを導入しており、過去に前例が見られない新規性の高い研究であることから推薦する。

タイトル 制御対象の入出力データを用いた最小二乗法による相関法に基づく多変数制御器の調整 —張力・速度制御装置に対する適用—
著者 宇佐見秀徳,弓場井一裕,平井淳之
巻号 電学論D,Vol. 130, No. 7, pp. 881-889, 2010
推薦理由 本論文はシステムモデルを陽に用いずデータの入出力から制御系を構成する手法について述べられている。多くの制御系設計はシステムモデルが必要であるが,モデルの導出や同定が困難な場合は数多く存在する。提案する手法では閉ループ系が所望の応答を満たすような制御器を任意の次数で構成できるという特徴を持つ。提案手法を2入力2出力のシステムに適用して,実験によってその有効性が明らかにされている。以上より,本研究成果がモーションコントロールの高性能化に資する大きな成果であると判断し,推薦する。

タイトル A Nonlinear Adaptive Compliance Controller for Rehabilitation
著者 Davide Pilastro, Roberto Oboe, and Tomoyuki Shimono
巻号 IEEJ JIA, Vol.5, No.2, pp.123-131, 2016
推薦理由 必要なときにのみロボットが人を支援する“Assist as needed”の概念はリハビリ支援ロボットの分野で重要なキーワードとなっている。しかしその制御アルゴリズムは複雑であり,その構築は困難を伴う。本論文では上肢の訓練を対象とした機器で触覚データの位置分布を取得し,その情報から適応的に患者に適した剛性制御のパラメータを決定する方法論を確立している。対象者の個人差が大きいにもかかわらず統一的な設計論への一般化を実現していること,その効果を臨床的に示していることから本研究成果が実世界ハプティクスの発展に資する大きな成果であると判断し,推薦する。

タイトル 終端状態制御によるハードディスクのショートシーク制御
著者 平田光男, 長谷川辰紀, 野波健蔵
巻号 電学論D,Vol. 125, No. 5, pp. 524-529, 2005
推薦理由 本論文は,サンプル値制御系を前提とした,高速性と制振性の両立を実現するフィードフォワード入力の生成法を提案している。そこでは,初期状態から終端状態まで遷移させる制御入力において,なめらかさに加えて,設計者が与える任意の複数周波数点において制御入力のフーリエ変換のゲインが最小となる軌道の導出方法が示されている。本軌道生成法は,論文内で示されているハードディスクドライブのシーク制御のみならず,機械共振を有するメカニカルシステムの高速・高精度位置決めを支える制御技術として,広く実製品に適用されている。

タイトル Analysis of Linear Feedback Position Control in Presence of Presliding Friction
著者 Michael Ruderman, and Makoto Iwasaki
巻号 IEEJ Journal of Industry Applications,Vol. 5, No. 2, pp. 61-68, 2016
推薦理由 本論文では,モーションコントロールの基盤をなすサーボ系において,非線形摩擦の存在の下での位置決め性能についての考察を与えている。特に,実用上良く見られる P-PIやPI-PI制御器によるカスケード型の制御構造について,非線形摩擦が位置決め性能に与える影響について解析を与えている。線形制御においては定常特性を改善するのに有用な積分補償も,非線形摩擦の存在下ではリミットサイクル(ハンチング現象)を誘発し,位置決め性能を大幅に低下させてしまう。本論文では,P-PIなどの線形なフィードバック制御器に,制御対象の入出力から摩擦力を推定するフィードフォワード摩擦オブザーバを追加し,二自由度制御構造にすることにより応答速度と位置決め性能を両立する制御系の構築を行い,実験システムによりその有効性を実証している。上述の通り,近年多様な応用を見せるモーションコントロールの分野において,本論文はその根幹を成す位置決め性能の向上を阻害する要因について解析を行い,その補償についての検討を行っている点で評価に値するものと考える。

タイトル 外乱推定オブザーバを用いたロボットハンドのバイラテラルサーボ制御
著者 稲玉 哲, 駒田 諭, 大西 公平
巻号 電学論D,Vol. 109, No. 4, pp. 281-288, 1989
推薦理由 本論文では,外乱オブザーバによって推定した外乱のうち慣性や粘性抵抗の変動分,動摩擦による外力などを補償することで,外力(反力)を推定することで,バイラテラルサーポ制御系において,スレーブにおける反力を検出している。ハプティクスに不可欠な力覚の計測を,センサレスに行う反力推定オブザーバの基本的概念を提唱したエポックメーキングな論文である。

タイトル マルチレートサンプリングを用いた完全追従制御法による磁気ディスク装置のシーク制御
著者 藤本 博志, 堀 洋一, 山口 高司, 中川 真介
巻号 電学論D,Vol. 120, No. 10, pp. 1157-1164, 2000
推薦理由 本稿は,マルチレートフィードフォワードに基づく完全追従制御器(Perfect Tracking Control: PTC)を磁気ディスク装置に適用し,ヘッドの高速高精度位置決めを達成したものである。著者らにより提案されたマルチレートフィードフォワード制御法は,多くの制御対象が持つ不安定な離散化零点に対し,安定逆系を設計し完全追従を達成する制御入力を生成することができる。本手法はその後,超精密ステージ,原子間力顕微鏡,工作機械などへ適用された。また理論面でもマルチレート適応ロバスト制御(Multirate adaptive robust control),学習型であるRepetitive PTC,連続時間系の不安定零点にも対応したPreactuation PTCへと発展した。