注目論文(半導体電力変換技術)

タイトル イミタンス変換器を用いた非接触給電装置
著者 入江 寿一, 南 信之, 南 秀明, 北吉 晴芳
巻号 電学論D Vol. 120, No. 6, pp.789-794
推薦理由

本論文では,無人搬送車に対する非接触給電装置において,イミタンス変換特性を利用して定電流出力を定電圧出力に変換する手法が提案されており,実験機により実証されている。

本論文が発表された2000年当時,非接触給電技術は黎明期にあり,実用化可能なレベルの非接触給電システムは世界でも稀であったと考えらえる。そのような時代背景の中で,イミタンス変換器の特性を用いることで受動部品のみで定電圧出力を得るなど,世界的にみても先駆的な研究であったといえる。また,共振を用いて非接触給電システムの特性を改善するという発想は,現在世界中で活発に研究されている電気自動車向け非接触給電システムに繋がるものであり,その点からも本論文が2000年に発表されたことは称賛されるべきものである。

上記の理由から,本論文を推薦する。


タイトル 単相電圧形PWMインバータ回路用フィルタリアクトルの鉄損算定法
著者 居安 誠二,清水 敏久,石井 謙市朗
巻号 電学論D,Vol.127,No. 3,pp.217-225
推薦理由

近年のパワーエレクトロニクス機器の設計において,スイッチング周波数を高周波化することによるインダクタやトランスの小型化を図ることが一般的である。しかし一方で,スイッチング周波数の増加による鉄損の増加,とくにスイッチングリプルにより発生する,動的マイナーループに起因する鉄損の増加が懸念される。

一方,複雑さを増すパワーエレクトロニクスの設計において,電気回路設計・冷却設計・ノイズ対策などをそれぞれ個別に行うのではなく包括的に行い,全体最適の実現を目指すという取り組みが進んでいる。このようなモデルベースでの最適化において,損失の正確な算定が極めて重要である。

鉄損の算定は,とくにパワーエレクトロニクスで用いられるように,基本波交流に加えスイッチング周波数によるリプルが存在し,それにより動的マイナーループの面積が逐次変化するような場合は難しいとされてきた。本論文はこれに対し,著者らがこれまでに提案した磁性体の損失に関する特性評価法を用い,インバータのフィルタ損失を算定する実用的な手法を示している。またこれを実験的に検証し,インダクタ設計への応用例を示すなどしている。

以上のように,本論文は,予想される今後のパワーエレクトロニクス技術の動向において重要となるであろう鉄損の算定法において,広く適用可能な極めて有用な手法を提案しており,推薦したい。。

タイトル 低ノイズIGBTモジュールの開発
著者 玉手 道雄, 佐々木 達見子, 鳥羽 章夫, 田久保 拡, パサン フェルナンド, 岡本 健次
巻号 電学論D Vol. 128, No. 7, pp.926-932
推薦理由

近年のスイッチング素子の高速化に伴い,インバータが発生する伝導ノイズが問題となっている。これまで,モータ駆動においてモータ巻線とフレーム間の浮遊容量による高周波漏れ電流のメカニズムやその抑制法に関する報告は多かったが,パワーモジュール内の浮遊容量を介して冷却フィンに流れる高周波電流について議論している論文は少なかった。

本論文では,2 in 1のIGBTパワーモジュールについて,モジュールの浮遊容量により発生する伝導ノイズについて,そのメカニズムを実験的に検証している。また,モジュール内の浮遊容量のモデルに基づき,伝導ノイズを低減できる構成を提案し,実験により検証している。

従来の EMC 対策技術は,ノイズにより障害が生じた場合や規制レベルを超えた場合に対策を施すことが多かったが,近年ではシミュレーションにより事前にノイズレベルを予測し,ノイズを考慮して設計できるようになってきた。このような観点から,モデルに基づく伝導ノイズの予測と,ノイズ対策の提案を行っている本論文は画期的である。またモジュールの浮遊容量を考慮したEMC 対策技術は,本論文の刊行後も多数報告されており,先進的な取り組みであったと言える。以上の理由により本論文を推薦する。


タイトル サージ抑制線使用時のモータサージ電圧の解析
著者 清水敏久,齋藤允喜哉,中村政宣,田中徳昭
巻号 電学論D, Vol. 129, No. 9, pp. 914-920, 2009-5
推薦理由

PWMインバータで交流モータを駆動する場合には,インバータのスイッチング時にモータ端子にサージ電圧が発生する。このモータサージ電圧はPWMパルス電圧の波頭値の2倍近い電圧になる場合もあり,電機子巻線の絶縁破壊の原因となる。この対策としては,フィルタ等を挿入する方式が一般的であるが,装置の大型化は避けられなくなる。また,昨今では,SiCやGaNなどの高速スイッチング素子が広く用いられており,電圧の立ち上がり速度の増加に伴って,短いケーブルにおいてもサージ電圧が発生しやすくなっている。

本論文では, モータ端子に生じるモータサージ電圧の抑制を目的としたサージ抑制線について述べられており,サージ伝搬の振る舞いが,インバータ,モータ,およびサージ抑制線を含む,複雑な多重反射系になることが解析的に示されている。また,実験結果との比較を実施してサージ抑制線を用いた場合の効果についても示されている。報告されている方式は,インダクタや線問キヤパシタ等を用いたフィルタが不要であるため,特に大容量のシステムには適用しやすい。さらに,既設設備であっても,適切なサージ抑制線を追加するのみで効果がある。なお,本論文で提示された技術は,実製品としても適用されており,極めて有用性が高いことから,注目論文として推薦する。

タイトル スイッチング素子1個の単相スイッチング電源入力電流波形改善
著者 五十嵐 康雄, 高橋 勲
巻号 電学論D Vol. 117, No. 8, pp. 927-932, 1997
推薦理由 単相PFCコンバータの代表的な方式の一つであるディザーコンバータを初めて電気学会論文誌として紹介した論文である。高力率整流回路の中でも,ディザー整流回路は1 個のスイッチで構成されるため,簡単な回路でしかも制御が容易であるため小容量の回路に向いている。ディザー整流器の原理的な提案は別論文で発表されているが,本論文は電気学会論文誌に投稿された初めての論文であり,代表的なチョッパ回路との組み合わせでの特性比較を示している。PFCコンバータの原点を構成する代表的な論文の一つとして注目論文として推薦する。

タイトル Single-phase Power Conditioner with a Buck-boost-type Power Decoupling Circuit
著者 Shota Yamaguchi, Toshihisa Shimizu
巻号 IEEJ Journal of Industry Applications,Vol. 5, No. 3, pp. 191-198, 2016
推薦理由 家庭用の太陽光発電用インバータは,単相系統に接続するために,インバータ直流側には電源周波数の2 倍の周波数で電力脈動が発生する。一般的には,この電力脈動を補償するために大容量の電解コンデンサを接続する必要がある。しかしながら,体積や寿命の観点から電解コンデンサではなくフィルムコンデンサへの置き換えが望まれている。近年,この電力脈動をアクティブに補償する回路方式が数多く提案されている。本論文では,電力脈動補償回路に昇降圧チョッパ回路を適用することによって,従来方式に比べて補償回路の直流電圧を20%低減でき,その結果,高効率な回路を提案し,実験により実証している。以上のことから,本論文では電力脈動補償回路を対象として実用的な回路方式の提案と実機検証を行ており,注目論文として値するものである。

タイトル キャリア比較方式を用いた仮想AC/DC/AC変換方式によるマトリックスコンバータの制御法
著者 伊東 淳一, 佐藤 以久也, 大口 英樹, 佐藤 和久, 小高 章弘, 江口 直也
巻号 電学論D,Vol. 124, No. 5, pp. 457-463, 2004
推薦理由 マトリックスコンバータは直流ステージを有しないことから,高効率化,小型化,長寿命化の可能性を秘めている。しかし,入出力波形を同時に制御する必要があるため,制御方式が複雑化する。本論文では,マトリックスコンバータを電流形整流器と電圧形インバータからなる間接形電力変換器に仮想的に置き換え,キャリア比較方式を前提とした仮想AC/DC/AC方式によるマトリックスコンバータの制御法を提案している。入出力の制御を分離して考えることにより,従来のインバータでの変調方式や制御法の応用が容易になる。本論文の発表後,仮想AC/DC/AC変換方式の波形改善方法や,モータ駆動システム,風力発電,無効電力補償,FRT制御などマトリックスコンバータの応用範囲を拡大する技術発表が続いただけでなく,空間ベクトルやキャリア比較方式に基づくスイッチング回数の最小化など,他の変調方式も含め多数のマトリックスコンバータに関する論文発表が活発化した。この結果,研究に大きな進展がみられ,この分野の研究を加速させる一助になったので,注目論文として推薦する。

タイトル 電力用アクティブパッシブ回路
著者 船渡 寛人, 河村 篤男
巻号 電学論D, Vol. 113, No. 5, pp. 601-610, 1993-5
推薦理由 電力変換回路の高性能化により, 交流電動機駆動の普及による家電・電動車両の高性能化・省エネルギー化など種々の分野で高機能化・省エネルギー化が進められてきた。一方, 電力変換回路は単に電力を変換して供給するに留まらず, 無効電力補償装置やアクティブフィルタなど電力用の特別な機能を発揮する用途も開発されている。例えば, 直列形電力用アクティブフィルタでは高調波に対して等価的に高抵抗として動作するように制御しており, 特定のインピーダンス発生機能を持たせるような応用が知られている。本論文では, 電力変換回路を用いて過渡応答も含めてリアクタンス(インダクタンスまたはキャパシタンス)を発生させる回路を提案して実験により実証を行っている。本回路は外部から見るとパッシブなリアクタンス素子として動作するが, アクティブリアクタンスを発生させるのでインダクタンス・キャパシタンスの切替やその値を変化させることが可能である。また, リアクタンスを負の値に設定することも可能であり, 後に負のリアクタンスの発生とその応用に関する論文が発表されている。このように, 電力変換回路の新しい用途を開発し, 特に負のリアクタンスという概念に結びついた論文であるので注目論文として推薦する。

タイトル 電圧形PWMインバータが発生するコモンモード電圧のアクティブキャンセレーション
著者 小笠原 悟司, 綾野 秀樹, 赤木 泰文
巻号 電学論D, Vol. 117, No. 5, pp. 565-571, 1997-5
推薦理由 電力変換器が発生する伝導ノイズ,放射ノイズなどの電磁障害(EMI)は,自機器あるいは周辺機器の誤動作をもたらす恐れがあるため,その低減が強く求められている。上記の電磁障害は,コモンモードノイズとディファレンシャルモードノイズに分類され,前者の抑制方法としては,コモンモードチョークやコモンモードトランスなどの受動素子を利用した対策が広く用いられている。一方で,現在,SiCやGaNなどの高速スイッチングデバイスを使用した電力変換装置が普及し始めており,それらが発生する電磁障害に対する懸念が広がりつつある。本論文では,コモンモードノイズの根本要因であるコモンモード電圧の変動に対して,能動素子とコモンモードトランスを使用し,逆位相の電圧を与えることにより打ち消す方法が提案されている。提案方式のように能動的にノイズを処理する方式は斬新な考え方であり,ノイズの大幅低減を実現できる。この方式は製品に応用された例もある。さらに,今後,高速スイッチングデバイスが普及した場合には,使用するコモンモードトランスの容積を小型化できる可能性がある上,ノイズ低減効果の期待も大きい。以上のように,本論文で提示された技術は,論文発表当時のみならず,今後の電力変換器に対しても有用性が高いものと言えるので,ここに推薦するものである。