活躍する女性エンジニアたち、電気系職場の今を語る(第2回)-3ページ目

活躍する女性エンジニアたち、電気系職場の今を語る(第2回)
活躍する女性エンジニアたち、電気系職場の今を語る(第2回)
自分が目指したい姿を、口に出して周囲に伝える大切さ
活躍する女性エンジニアたち、電気系職場の今を語る(第2回)

やりたいことがあるのなら、ためらわず口にして周囲の理解を得るべき

— 稲森:男性社会の中で働く女性は、出産・子育て、親の介護など、男性が窺い知らないやむを得ない事情で仕事に注力できないことがあります。そんな事情を、職場の人たちになかなか理解してもらえず、悩む人も多いように思えます。どのように、こうした困難を克服すればよいと思われますか。

中島:私がまだ現場での仕事に付く前、かつての上司に「現場に行きたいか」と聞かれたことがありました。上司の問いかけは「現場で経験を積んでステップアップしたいか」という意味だったようです。ところがちょうどその頃の私は、子供がまだ小さく、泊まりの仕事ができない状態でした。そのため、「無理です」と答えたのです。その後、現場勤務をしたいと思ってもなかなか機会はありませんでした。
もちろん、私の現場勤務がなかったのはこの出来事だけが原因だったわけではないのかもしれません。しかし、私は後輩には、「たとえ2、3年何らかの事情で仕事に注力できない時間があっても、女性は状況が変化するため、『その後注力できるようになったらぜひやらせて下さい』とハッキリと意思表示しておくことが必要」と、伝えるようにしています。

水谷:私も、思いを口に出すのはとても大切なことだと感じます。私は2020年に学位を取ることができました。それは、ドクターになりたいということを、ずっと言い続けてきたからこそ実現できたのだと思います。私は、学生時代には物理学を専攻し、電気工学とはまったく畑違いの分野から来たので、ドクターになろうとしても出身大学の先生に師事することができませんでした。それでも、何十年もいい続けていると、上司が「あの先生のところに行ってみたらどうか」と紹介してくれて、3年間掛けて博士号を取ることができました。望みを口に出すことは本当に重要です。今はできないけどやりたいこと、困難だと思っても成し遂げたいことは、周囲の協力がなければ実現できません。そのためには、まず自分が望んでいることをハッキリと言葉にしないと分かってもらえません。

— 稲森:思いを言葉にして伝えるのは大切です。辛抱強く、言い続けることが大切なのです。女性でエンジニアになろうとする人の中には、学位を取りたいと考える人は一定数いるのではないかと思います。水谷さんが学位を取るまでの経緯を少し詳しく教えていただけませんか。

水谷:実は、会社に入社した当時から、学位を取得することにあこがれを抱いていました。入社してから3年位で、査読論文を書いてみたのですが、誰にも相手にされなかったので諦めていました。それでも、学位を取りたいという意思表示だけはずっとしていたのです。そしてある時、電気学会でもよく知られている女性エンジニアである東芝三菱電機産業システムの川上紀子さんが学位を取ったという話を聞きました。大いに触発され、川上さんにどのようにして学位を取ったのか聞きに行き、本格的に学位取得に向けて動き始めたのです。
私は、上司が非常勤講師を努めていた東京工業大学のエネルギーコースの先生を紹介していただきました。東工大のエネルギーコースは、エネルギーに関するものならば何でも受け入れるという間口の広いところでした。3年間で3件以上論文を出す必要があると、高いハードルは示されましたが、研究テーマが豊富な蓄電池関連の研究だったこともあり、論文の書き方や赤入れをしてもらいながら、何とか学位を取るところまで辿り着くことができました。

— 稲森:今では社会人になってから、お客さんから「学位を持つ人を連れてこい」と言われたりして、必要に駆られて学位を取りに来るケースもあります。これからの社会人のステップアップのひとつの筋道になりそうです。会社でそれなりの役職が付き始めると、なかなか学位を取ることがむずかしくなるでしょうから、若いうちから意思表示しておくことは重要です。

次回(第3回)は最終回です。「女性エンジニアの会」の存在意義とそこで描く将来展望

— 稲森:3回シリーズでお届けする、女性エンジニアが電気系の仕事と職場について語り合う座談会。第2回の今回は、電気系職場で働くことでえられる研究者・エンジニアとしてのやりがい、コロナ禍を機に一層改善されてきた働き方、さらには女性エンジニアがキャリアを積んでいくための心得などについて議論した内容を紹介しました。それぞれの女性エンジニアが、自分が目指す姿に向かって積極的に発言・行動し、望みや志を力強く実現している様子が語られました。最終回となる第3回は、他社の女性エンジニアと語り合い、職場の中では話せない悩みを共有して活路を探る場である電気学会「女性エンジニアの会」の存在意義と、そこで描く将来展望について議論します。どうぞご期待ください。

ライター/学会関係者

株式会社エンライト

伊藤元昭/三浦友史 塚越昌彦