技術者・研究者インタビュー Vol.2

技術者・研究者インタビュー Vol.2
技術者・研究者インタビュー Vol.2
8年の広報活動で情報発信の重要性を再認識
2回目のインタビューは、鉄道車両を走行させるためのモータ駆動用インバータ装置などの開発設計を行うと共に、電気学会/産業応用部門/編修広報委員会で8年にわたりニュースレターの資料コーナに携わった若手技術者に話して頂きました。
  • 株式会社東芝
    インフラシステムソリューション社

    川合 弘敏さん
    かわい ひろとし

    鉄道システム部
    業務内容/職種:
    電気設計・ソフトウェア設計
    入社:14年目
    大学:2003年大学院卒
    (理工学研究科電気工学専攻)
    学会活動:
    編修広報委員会/「資料コーナー」担当

乗物好き講じて鉄道系メーカーに…

- まず電気工学との出会いから聞かせください。

もともと子供の頃から乗り物が好きな上、ものづくりも好きだったので、中学・高校時代は文化系科目よりも理科系科目の方が得意でした。その後、大学もやはり理工系に進んだわけですが、大学の研究室選びをしていた時に、パワエレが鉄道や電気自動車などで広く使われている技術だということを知り、パワエレに興味をもちました。それでパワエレ関連の研究室を選んだという経緯があります。

- 大学ではどんな研究をしていましたか。

大学院では理工学研究科電気工学専攻で、研究室はパワエレ関連のモータドライブを扱っていました。研究テーマは、並列接続誘導電動機の速度センサレスベクトル制御の研究です。つまり、速度センサを使用しないで1台のインバータに並列接続された複数の誘導電動機をベクトル制御するという研究です。

- 就活ではやはり電気工学関連を探しましたか。

活では大学での研究を活かせる職業に就きたいと考えていました。元々、鉄道や自動車などさまざまな人が利用できる乗り物に関する物作りをしたかったので、就活の対象としては鉄道系か自動車系のメーカーを探していて、最終的に鉄道系のメーカーに就職を決めました。

脚注

(*1)PMSM:Permanent Magnet Synchronous Motor(永久磁石同期電動機)

インバータ駆動装置の開発・設計担当

- 現在の仕事の内容を教えてください。

現在所属している部署では、鉄道車両を走行させるためのモータ駆動用インバータ装置や、架線からの電力を変換し車内の各機器の仕様に合わせた電源を供給する補助電源システムの設計・製造を行っており、その中でも主に鉄道車両を走行させるためのモータ駆動用インバータ装置の開発・設計に従事しています。今の仕事を見れば、大学時代の研究室の内容がそのまま仕事に通じていることから、研究内容を活かせる職種を選んだといえますね。

- 架線からはどのくらいの電力が供給されるのでしょうか。

架線から供給される電力は、鉄道会社によっても違うのですが、在来線では直流の1,500ボルト、都心の地下鉄などでは直流の750ボルト程度、地方の鉄道とか新幹線のように長距離を走る路線は交流の2万ボルトや2万5,000ボルトといった高圧を使っています。こうした環境で使用される製品の中で、私の具体的な仕事内容は、電気設計とソフトウェア設計が担当です。具体的な内容としてはインバータの高圧回路部の設計とその回路に使われている部品の選定を行っています。また、高圧のみならず低圧回路の設計や、そこで使用される基板やリレー、コンダクターなどの選定もやっています。

私の部門では、鉄道用としては他社に先駆けてPMSM(*1)という永久磁石を使った省エネモータとその駆動用インバータ装置を量産し営業車両に適用しました。パワエレ技術を応用してPMSMを駆動するインバータ装置を設計することが仕事ですが、隣にモータを設計している部門があり、そこと一緒に設計・開発を進めています。現在、誘導電動機が鉄道業界で一般的に普及しているのですが、PMSMを適用すると大体20%〜50%の省エネ化を実現しています。

実際にはまず既存車両の消費電力量の調査と、既存車両に適用されているモータをPMSMに置き換えた場合の消費電力量を路線の状況やその路線の変電設備の状況も調べてシミュレーションを行い、PMSMを適用することでどれだけの省エネ効果が期待できるか検討し、お客様へ製品の提案を行います。受注が決まったら、その結果を受けて各課で設計を行い、製造、試験が進められて、納品となります。私のセクションでは、設計だけでなく、受注提案段階から納品後の車両における走行試験までプロジェクト全体の取り纏めも行っています。

- インバータによる制御やモータの省エネ効果というのは。

実際の省エネ効果は、インバータよりもモータそのものの効率が上がったことが大きく寄与しています。従来の誘導電動機というのは、電流をコイルに流すことで磁束を発生させるため、コイルの巻き線による抵抗でロスが発生します。ところがモータの内部に使用されているPMSMは永久磁石ですので、電流を流さなくても磁束が発生することから、ロスがほとんどなくなります。もちろんPMSMを駆動するためのインバータの制御が難しいのですが、そこにはパワエレ技術を応用したノウハウが詰まっています。

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