令和4年 電力・エネルギー部門「研究・技術功労賞」および「部門活動特別貢献賞」受賞者

2023/01/23

電力・エネルギー部門(B部門)では,長年,地道な活動を続けてこられ,技術の発展に貢献された研究者または技術者の方々の労に報いるとともに,電力・エネルギー分野技術の更なる発展を図ることを目的とし,平成18年から,部門表彰制度として「研究・技術功労賞」を設けております。また,部門の活動に関する特に著しい貢献に対して,令和3年から「部門活動特別貢献賞」を新たに設けました。研究調査運営委員会および部門役員会での審査の結果,令和4年の「研究・技術功労賞」および「部門活動特別貢献賞」の受賞者は,以下の通り決定いたしました。受賞者は,令和4年電力・エネルギー部門大会の特別企画(9月8日)にて紹介されました。

 

件名 受賞者 受賞理由
研究・技術功労賞

「バーチャルパワープラント(VPP)システム実用化,ブロックチェーン技術を活用した電力・環境価値P2P 取引適用への貢献」

石田 文章 殿
〔関西電力(株〕
長年にわたり一般電気事業者である関西電力株式会社の電力システム分野において,送変電設備計画業務・電力系統解析業務・電力自由化業務に従事し,これらの知見・経験を活かしたVPP システム実用化実証活動とブロックチェーン技術を活用した電力・環境価値P2P 取引適用への実証実験・実証研究活動を行った。

VPP システムの実用化への貢献に関しては,2011 年3 月に発生した東日本大震災を契機に,分散型電源である太陽光発電や風力発電等の再生可能エネルギーの大量導入の動きや地域での地産地消を目指すマイクログリッド・スマートコミュニティ構築の動きがあった。この動きに対応した活動を地域エネルギー本部(現ソリューション本部開発部門)において,2012 年度から行っていた。当時,北米で実証されていた需要家エネルギーリソースをDR(デマンドレスポンス)で動かす仕組みや,欧州で実証されていた分散型小型電源を動かす仕組みに着想を得て,これらを統一的に集約して活用するバーチャルパワープラント(VPP)システム構築の検討を2014 年度に開始した。2015 年秋に,社内経営層を交えた社内委員会の場でVPP 構築構想推進の承認を得るとともに,2016 年度から公募が開始された経済産業省バーチャルパワープラント構築実証補助事業補助金に応募し採択され,本格的にシステム構築の検討を開始。以降5 年間にわたり,技術課題の解決を図るべく当該補助事業に毎年採択された上で実証を行い,2020 年度に本システムが完成し,2021 年度から開始された送配電網協議会の需給調整市場への参入を果たした。また,本技術を活用したシステムは需給調整市場の他にも,2017 年度向けに2016 年秋に各TSO から公募開始された調整力公募(毎年各TSO 公募実施)にも利用されるとともに,2020 年秋に,2024 年度向けに電力広域的運営推進機関から公募開始された容量市場(毎年,電力広域的運営推進機関公募実施)にも実用的に利用されることとなった。

次に,ブロックチェーン技術を活用した電力・環境価値P2P 取引適用への貢献について,2009年秋から始まった家庭用太陽光発電余剰電気の買い取り制度は,10 年間の買取期間が2019 年に終了することが予定されていたことから,買取期間が終了する顧客に対して個人が直接余剰電気の販売を可能とする今後の選択肢の提供を目的として,2017 年度からブロックチェーン技術を活用した電気の直接取引に関する調査研究を実施した。その後,2018 年10 月から,電力のプロシューマーとコンシューマー同士が,太陽光発電によって生じた余剰電力の売買価格決定および直接取引ができる実証研究,2019 年12 月からブロックチェーン技術を使って太陽光発電電力の環境価値の売買価格の決定やRE100 参加企業向けの取引ができる実証研究を行ってきた。これらに加えて,最近では,2022 年3 月にデジタル通貨を用いた電力P2P 取引と店舗決済の実証実験を行うなど,実用化を見据えた研究活動についても貢献している。

また,上記活動の間,IEEE 関西支部Secretary/Treasurer・電気学会編修専門第Ⅰ部会委員/副主査・電気学会新エネルギー環境技術委員会1 号委員・電気学会スマートグリッド需要家施設サービスインフラ調査専門委員会委員・電気学会ローカルVPP を目指す分散エネルギー技術調査専門委員会委員・電気学会エネルギーのデジタル化とデータ活用技術調査専門委員会委員などにおいて幅広い学会活動にも大きく貢献した。また,VPP システム実用化や電力・環境価値P2P 取引適用に関連して電気学会他での学会発表,電気新聞を始めとする各種雑誌記事投稿や書籍出版,多数の国内外の場でのセミナー等講演を通じて,先進的技術の普及拡大に対して多大な貢献を行った。加えて,経済産業省スマートグリッド戦略専門委員会委員・経済産業省スマートグリッド戦略標準化委員会委員・経済産業省エネルギーリソースアグリゲーションビジネス検討会委員等,国等の検討会の場に就任し,初期のVPP 実用化の制度や仕組みの構築進展に関して大きく寄与した。

研究・技術功労賞

「電力系統解析技術発展への貢献」

金尾 則一 殿
〔北陸電力(株)〕
約30 年にわたり,電力系統の電力品質(高周波,瞬時電圧低下や安定度)に関する系統解析技術に関する研究開発に従事しており,分散型電源が大量導入される将来に向けた課題解決など,系統解析技術・運用技術の発展に貢献してきた。特に,基幹系統にて高調波の状態推定方法を実証するとともに,超高圧系統での偶数次高調波の発生という特異な現象についてその原因を解明し,電力系統の電力品質に関する解析技術の向上に貢献した。

分散型電源の大量導入に対しては,電力系統の安定運用に必要とされるFRT(事故時運転継続)やDVS(分散型電源の動的電圧維持機能)の研究に携わり,これらを実現する制御方法を「分散型電源システム」としてメーカと共同で実用化した(特許取得)。また,自然エネルギーの出力変動特性の把握では,複数の風力発電出力のスペクトル分析を実施し,変動周波数の関数として「均し効果」を表現する方法を国内で初めて提案し,電力系統の安定運用技術の向上に貢献した。

近年では,分散型電源の単独運転検出で問題となる周波数フィードバック方式のハンチング現象(分散型電源の無効電力出力や電圧が周期的に変動する現象,照明がちらつくなど)を自動制御の安定判別法を用いて理論的に解明した。また,PV が導入された配電線の潮流からPV 出力及び短時間先の需要を推定する方法(カルマンフィルタ使用)を提案し,配電系統の運用技術向上に貢献した。

部門活動特別貢献賞

「世界に向けた優秀論文の情報発信 -共通英文論文誌における「電力・エネルギー部門研究会における優秀論文発表賞と技術委員会表彰」特集を創設-」

岩尾 徹 殿
〔東京都市大学〕
電気学会の役割は時代の変遷・進展にあわせて変化しており,近年の急速な社会のグローバル化に対し,国外に向けた研究・調査活動の成果発信の必要性は増している。受賞者は,電気学会共通英文論文誌において「電力・エネルギー部門(B 部門)研究会における優秀論文発表賞と技術委員会表彰」特集を創設し,2020 年5 月号(2018 年投稿論文が対象)以降これまでに3 回にわたり継続して出版してきた。この特集号の特長は,和文で執筆・投稿された論文でも翻訳した上で,英語論文として研究成果を発信することができる点にある。英語論文の投稿に対する障壁を下げるために学会が翻訳費用を負担して後押しし,共通英文論文誌への論文投稿数の増加およびインパクトファクタの向上に大きく寄与してきた。また,同特集号の査読フローの構築にあたり,B 部門では初めてゲストエディタ制を導入,自らゲストエディタとして適切な査読を短期間で実施する役割も果たし,情報発信の国際化,B部門のプレゼンス向上に大きく貢献した。