令和5年 電力・エネルギー部門「研究・技術功労賞」および「部門活動特別貢献賞」受賞者

2024/04/12

電力・エネルギー部門(B部門)では,長年,地道な活動を続けてこられ,技術の発展に貢献された研究者または技術者の方々の労に報いるとともに,電力・エネルギー分野技術の更なる発展を図ることを目的とし,平成18年から,部門表彰制度として「研究・技術功労賞」を設けております。また,部門の活動に関する特に著しい貢献に対して,令和3年から「部門活動特別貢献賞」を新たに設けました。研究調査運営委員会および部門役員会での審査の結果,令和5年の「研究・技術功労賞」および「部門活動特別貢献賞」の受賞者は,以下の通り決定いたしました。受賞者は,令和5年電力・エネルギー部門大会の特別企画にて紹介されました。

 

件名 受賞者 受賞理由
研究・技術功労賞

「長距離大容量の地中送電線技術の信頼度向上への貢献」

松井 俊道 殿
〔中部電力(株)〕
長年にわたり地中送電の建設工事・研究開発に従事し,電力の安定供給に貢献してきた。

1980年代後半の日本の経済成長に合わせて,地中送電線による長距離かつ大容量の超高圧CVケーブルの建設ニーズが顕在化してきた。長距離線路をケーブルにて構築するためには,工場から運搬してきたケーブルを現地にて接続する必要があり,接続の過程で入りうる異物等の欠陥をスクリーニングする技術が必要であった。

当時のスクリーニング技術は,直流課電による耐電圧試験が主流であったが欠陥の検出能力が高い交流での実施が望ましかった。静電容量の大きい長距離線路に交流での耐電圧試験を行う方法は,共振現象による方法が考えられていたが,不安定な共振状態を長時間維持する制御システムを構築できていなかった。そのため,この装置を開発することで,交流での耐電圧試験を実用化した。

また,交流での耐電圧試験により欠陥から発生する信号(部分放電)の検出は環境ノイズが大きいと信号を検知できない課題があった。そのため,接続部から抽出した信号から,アンテナによりノイズをキャンセルすることで部分放電測定技術を確立した。さらに,欠陥の種類と部分放電パターンを事前にデータ収集することでフィルタを構築し,欠陥検出の精度向上を図った。これらの技術開発によりスクリーニング技術が確立し,長距離の超高圧CVケーブル線路が導入されていった。このように,長距離地中送電線の技術開発ならびに現場適用に貢献すると共に,特許を取得した。

その後,電気協同研究や耐雷設計ガイドの規格改定などの要職を長年歴任しており,これらの業務の中で後進の育成・指導にも尽力している。地中送電線の信頼度向上に貢献する技術開発に貢献しており,研究・技術功労賞に推薦するものである。

研究・技術功労賞

「配電系統の電力品質向上技術発展への貢献」

小林 浩 殿
〔(株)トーエネック〕
候補者は,1991年に株式会社トーエネックに入社以来,30年以上にわたり,配電系統の高調波抑制,電圧不平衡抑制,電圧上昇抑制などの電力品質向上技術に貢献してきた。

高調波抑制対策については,1994年に,当時としては画期的な「連続多点同時測定による高調波測定システム」を開発し,多くの現場での測定に用いられた。これにより,配電系統の高調波電圧や高調波電流の実態が明らかになり,その後の高調波対策の検討に大きく貢献し,2006年に澁澤賞を受賞した。また,現場での豊富な測定実績に裏打ちされた高調波に関する知見を活用し,日本電気協会の技術規程「高調波抑制対策技術指針」の2013年改訂では,分科会の中心的な役割を務め,2015年に日本電気技術規格委員会より日本電気技術規格功績質を受賞した。

また,配電系統の電圧上昇の要因である高圧需要家の過剰な進相コンデンサ(SC)を削減するため,電気協同研究「配電系統における力率問題とその対応」の出版に際して,全国大のSC稼働状況の実測調査・分析に中心的な役割を果たした。また,新たな力率計測手法を用いた低コスト型自動力率調整装置,SCを活用した電圧不平衡抑制手法及び対策装置を研究・開発し,電圧上昇抑制,電圧不平衡抑制に貢献した。低コスト型自動力率調整装置の開発では,2019年に澁澤賞を受賞した。

さらに,D部門のスマートファシリティ技術委員会の委員・幹事を歴任,C部門 D部門の調査専門委員会へも委員長・委員として多数参加し,B部門と他部門間の連携強化に大きく貢献した。

このように,候補者はB部門への研究・技術の発展に大きく貢献しており,研究・技術功労買に推薦するものである。

部門活動特別貢献賞

「U-21学生研究発表会開催への貢献」

伊藤 雅一 殿
〔福井大学〕
電気学会B部門では,学会入会前の21歳以下の中学生,高校生,高専生,大学生が日頃の勉強や研究の成果,例えば,SDGs,電気・エネルギー, AI,VR,ドローン,DX等に関連する実験・計算結果などを発表する場として「U-21 学生研究発表会」を企画・提案して開催している。

この研究発表会の第1回は令和元年度を予定していたものの,COVID-19の影響で中止となり,実際の初回開催は令和2年度(令和3年3月)オンライン形式となった。受賞者は,その実施にあたり事前に発表者・座長・聴講者マニュアルの作成,当日運営・進行,即日表彰のための採点集計システムの構築などを,B部門役員会の委員(副部門長補佐)として主導して進めて成功裏のうちに終了した。また,得られた知見やノウハウを活かして令和4年3月の当該研究発表会のオンライン開催にも候補者は貢献し令和4年度よりB部門から本部を中心とした事業に移管され電気学会全体での活動に発展している。このように,受賞者は「U-21学生研究発表会」の立ち上げおよび発展に大いに貢献し,この活動は電気学会B部門および電気学会全体の新たな取り組みを支えるものとなっている。