用語解説 第2回テーマ: 蓄熱式空調システム

2020/08/19

田村 清[関西電力(株)]

1. 蓄熱式空調システムとは

冷房,暖房の空調で必要とされる冷温熱エネルギーを蓄えて効率的に活用するシステムであり,空調システムに蓄熱装置を取り入れて構成される(図1 参照)。具体的には,熱源機器(ヒートポンプ,冷凍機等)と空調設備(室内の冷暖房機器)との間に,蓄熱装置を設け,昼間の冷暖房に使う熱を夜間のうちに熱源機器を稼動して蓄熱媒体に蓄え,その熱を昼間に利用し冷暖房を行なう構成,仕組みである。


図1 蓄熱式空調システムの概念図

2. 蓄熱式空調システムの概要

(1) 蓄熱式空調システム採用の効果

室内の冷暖房負荷は,季節,時間により変動し,また,建物の室,階数により異なることがある。このような需要変動に対して,水,氷等を利用した蓄熱装置を設け,その熱を負荷需要の大きい時間帯に利用することにより,設備容量の削減や設備稼働率の向上等が図れ,次の効果が期待される(図2,図3 参照)。

・時間ピークに対応する熱源の容量が軽減できる
・熱源機器が定格で高効率に運転できる
・熱の回収や需給変動の吸収ができる


図2 蓄熱式でない空調システムの運転状況の概念図


図3 蓄熱式空調システムの運転概念図

(2) 蓄熱の方法

蓄熱の方法には,潜熱(物質の状態変化のために費やされる熱であり,気化熱,融解熱を示す),顕熱(物質に状態変化を変えずに,温度を変化させるために費やされる熱),化学反応熱を利用する方法がある。一般的な蓄熱材としては,単位体積当りの蓄熱量が大きく,化学的に安定しており,毒性がなく,入手が容易なことから,水,氷が使用されている。

(3) 具体的なシステムの概要

・水蓄熱空調システム

蓄熱槽と呼ばれる槽に,冷房用には熱源機器で冷却した冷水を,暖房用には温水を蓄える。蓄熱槽の中で温度の異なる水が混合しないことが望ましい。蓄熱槽は熱のたまり方の違いから連結完全混合形と温度成層形に分類される。前者は,単槽内の水は完全に混合させるが,数多くの槽を直列につなげることにより,全体としては混合を抑えており,後者は,ひとつひとつの単槽内で水の混合を抑えている。

・氷蓄熱式空調システム

水が氷に相変化するときの冷熱を蓄えるため,水冷熱に比べ小さな容量となる。

3. 最近の技術動向

エネルギー効率の向上,CO2 排出抑制等の環境負荷低減を可能とするために,蓄熱式空調システムの小型分散化,適用用途の拡大,電源容量の低減等が進められている。

【電気学会論文誌B,130巻12号,p.1138,2010に掲載】