用語解説 第3回テーマ: マイクログリッド

2020/08/19

田邊 隆之[(株)明電舎]

1. マイクログリッドとは

マイクログリッドは米国のDOE( Department of Energy : エネルギー省) の元で設立されたCERTS(Consortium of Electric Reliability Solutions:電力供給信頼性対策連合)により,今世紀の初頭に提唱された概念が発端である。国内外各所でこれまでに多数のマイクログリッドの研究が行われてきており,電力の安定供給,再生可能エネルギー電源の普及拡大,コージェネレーションの排熱の有効利用など,それぞれ様々な目的と特徴を有する。いずれも小規模かつ多様な分散型電源を組み合わせて,特定地域のエネルギー需給を司る電源システムである。マイクログリッドの概念図を図1 に示す。


図1 マイクログリッドの概念図

2. マイクログリッドの要素技術

マイクログリッドの特徴的な要素技術を図2 にまとめ,代表的な要素技術について以降の節に補足する。


図2 マイクログリッドのコンセプト

(1) 自然エネルギー電源の活用(地産地消・良き市民)

太陽光発電や風力発電などの自然エネルギー電源は,環境負荷が低いという長所を有する一方で,そのエネルギー源の不安定性故に,同電源が大量に普及すると電力系統の安定性に影響を与えることが懸念されている。マイクログリッドに高度な需給バランスの維持機能を持たせることで,自然エネルギー電源の導入可能量を拡大できると期待されている。

(2) 電力供給信頼度の向上(信頼度向上)

コンピュータシステムや工場の生産ラインなど,電力負荷の中には僅かな停電も許されないものがある。このような重要負荷に対して,安定的な電源供給を継続するために,僅かな電力系統の変化を捉えて,マイクログリッドを自立運転に移行する技術が検討されている。

(3) 電源品質の向上(高品質な電力)

電力系統の停電時などにマイクログリッドが自立運転に移行した後にも,電力系統と同程度の電源品質(電圧や周波数の安定性など)の維持を図る技術が検討されている。電力系統の電源品質を維持するためには,瞬時瞬時で需要と供給のバランスを高度に維持する必要があり,系統規模が小さくなるほど,その困難さが増す。多くのマイクログリッドの研究で問題解決のために電力貯蔵装置が用いられている。

(4) エネルギー運用の最適化(異種電源協調)

多種多様な分散型電源を組み合わせて,電力や熱のエネルギー需給を維持すると共に,環境性や経済性を高めるためのエネルギー運用の最適化が数多く検討されている。運用の最適化を図るためには事前の運用計画が重要であることから,同時に自然エネルギー電源の発電予測を含む,需給予測の技術が検討されている。

3. 最近の動向

近年スマートグリッドという概念が高い注目と期待を集めている。スマートグリッドは,高度に発達した情報通信技術を電力系統の運用に積極的に活用しようとするものであり,マイクログリッドの概念と共通する部分が多い。スマートグリッドに関する議論が進められる中で,マイクログリッドの概念も,目的や手段を変えるなど,新たな検討のステージに入っていくものと思われる。

【電気学会論文誌B,131巻1号,p.132,2011に掲載】