用語解説 第4回テーマ: 海洋温度差発電
2020/08/19
高野 富裕[三菱電機(株)]
1. 海洋温度差発電とは
(1) 概要
海洋温度差発電 (Ocean Thermal Energy Conversion:略称OTEC) は,潮汐発電や波力発電と同じく海洋エネルギーを利用した発電の一種である。水深600~1,000m の深層水は7℃以下の冷水であり,これを汲み上げると温かい表層水(24~30℃)との間で熱移動が発生する。この熱移動からエネルギー変換によって電気エネルギーを取り出す発電方式である。したがって,表層水の温度がより高い低緯度(赤道近く)ほど,高効率が期待できる。
(2) 発電の仕組み
海洋温度差発電は,表層水の熱により海水やアンモニア等の媒体(作動流体)を気化させる“蒸発器”,蒸気により回すタービンと発電機,深層水によって蒸気を冷却し,液体に戻す“凝縮器”から構成される(図1 参照)。原理的には“火力発電の低温版”とイメージするとわかりやすい。方式としては,①海水を媒体として,凝縮後に海に戻すオープンサイクル,②低沸点のアンモニア等を媒体として,凝縮後の媒体を循環再利用するクローズドサイクル,③両者を組み合わせたハイブリッドサイクル,が代表的である。媒体がアンモニアであれば,沸点は-33℃であるため表層水温で気化するが,媒体に海水を利用する場合は,真空ポンプで減圧して水の沸点を下げ,フラッシュ蒸発させる。深層水の汲み上げなど補機動力に電力が大量消費されるため,システム全体の効率としては3%程度と言わる。
図1 海洋温度差発電の概念図
2. 海洋温度差発電の利用価値
(1) 発電ポテンシャル
太陽によって温められた表層水の熱を利用する自然エネルギー発電の一種であり,理論的には無尽蔵のポテンシャルがある。更に海水温度は天候にあまり左右されず安定しているため,太陽光発電や風力発電と異なり,時間変化が少なく,安定電源として利用できるメリットがある。
(2) 活用方法
海洋温度差発電は,単なる発電システムとしてのみならず,様々な副産物が期待できる。例えばオープンサイクルでは,海水を気化後,液化するため,副産物として淡水が得られる。これは離島での飲料水確保に活用できる。
他にも,冷たい深層水を汲み上げることから,冷熱利用による空調,栄養に富んだ深層水を使った養殖や漁場造成,深層水に混在する鉱物採取などが考えられ,それらと組み合わせたトータルシステムが検討されている。
図2 海洋温度差発電を中心としたトータルシステム
3. 歴史と最近の動向
研究の歴史としては古く,1880 年代に始まる。しかし深層水を大量に汲み上げるための大掛かりな設備が必要であることから,本格的な研究は1970 年代のオイルショック以後となる。日本では佐賀大学が,水とアンモニアの混合物を媒体に使用した「ウエハラサイクル」を開発し,伊万里で本格的な実証実験に取り組んでいる。近年,地球温暖化対策の一環として,研究を一時休止していた欧米やアジア各国でも,MW クラスの実証プラント建設など研究開発を再開する動きがある。
文献
(1) 電気学会:電気工学ハンドブック第6版,電気学会,pp.1399-1400 (2001-2)
(2) https://www.ioes.saga-u.ac.jp/jp/index.html