用語解説 第7回テーマ: ヒューリスティックアプローチ

2020/08/20

竹原 有紗〔(財)電力中央研究所〕

1. 電力系統の最適化問題

電力系統の計画・運用に関する問題を制約条件付き最適化問題として扱う場合,大規模性,非線形性に加え,整数と連続数の混在もあり,非常に複雑な非線形整数計画問題や非線形混合整数計画問題となる。この問題には複数の解が存在し,数理的なアプローチによって厳密な最適解を求めるのは極めて困難である。そこで,必ずしも理論的な保証がなくとも現実的な計算量,時間で,最適性に満足のいく解を求めることを狙いとし,問題に固有の知識や経験的な知識を利用し,効率的に解を探索するヒューリスティックなアプローチ(発見的手法)が多く用いられてきた。

2. メタヒューリスティクス

近年,ヒューリスティックアプローチに制御パラメータを導入し,良い解を効率的に得るメタヒューリスティクスがよく用いられている。「メタ」という言葉は「個別の要素を構造的に司る上位概念」というような意味として捉えられている。メタ戦略,モダンヒューリスティクスと呼ばれることもある。メタヒューリスティクスは現場のルールやノウハウをプログラミングしやすいという特徴があり,電力系統の多くの研究者・技術者の間では,エキスパートシステムやファジイ,ニューラルネットワークなどと同様に,インテリジェントシステムの1 つと考えられている。
メタヒューリスティクスは,物理現象,生物の進化過程,生物の集団・社会行動などを基に構築されている。代表的なメタヒューリスティクス手法として,遺伝的アルゴリズム(GA;Genetic Algorithm),タブサーチ(TS;Tabu Search),シミュレーテッドアニーリング(SA;Simulated Annealing ), 粒子群最適化( PSO ; Particle Swarm Optimization),蟻コロニー最適化(ACO;Ant Colony Optimization)の概要を表1 に示す。この他,進化的プログラミング(EP;Evolutionary Programming)や免疫アルゴリズムなどがある。
メタヒューリスティクスについては,電力系統の特徴を利用した手法の改良だけでなく,各手法の長所を生かした複数の手法の組み合わせ,融合についても研究が行われている。

表1 代表的なメタヒューリスティクス手法

手法 概要
GA 生物の遺伝機構を模擬。解を遺伝子コードとして表現し,解候補の交叉,突然変異などの遺伝的操作を繰り返して探索を行う。多点探索を行うため,大域的探索が可能。
TS 既に通過した解へ戻ることを避けるために,タブリストと呼ばれるリストを利用しながら探索を行う。探索のパラメータが比較的少なく,確率に依存する部分が少ない。
SA 金属の焼きなましにより金属分子がエネルギー準位の最も低い状態に並ぶことを模擬。改悪となる状態遷移からも確率的に受理することで,局所解からの脱出を図る。
PSO 鳥や魚が餌を探索する過程を模擬。群れが情報を共有しながら効率よく解を探索する。連続変数を扱うことができる。
ACO 蟻がフェロモンの情報を利用しながら餌を見るけるメカニズムを模擬。群れ行動に基づいた探索手法であり,大域的な情報を保持しながら探索を行う。

3. メタヒューリスティクスの適用例

電力系統業務に関するメタヒューリスティクスの研究事例として,主なものを以下に示す。

・中長期の設備計画:電源拡充計画,系統拡充計画,調相設備計画
・短期の運用計画:発電機起動停止計画,電源補修計画,最大電力予測,最適系統構成検討,作業停止計画
・オンライン業務:電圧・無効電力制御,負荷周波数制御,事故時復旧操作,経済負荷配分

メタヒューリスティクスはこのように幅広い問題に適用されているが,解の妥当性評価やパラメータの調整などの課題があり,実用化されている事例はまだ少ない。しかしながら,メタヒューリスティクスは電力系統に関わる大規模,複雑な問題に対しても効率良く現実的な解を得られる有望な最適化手法であり,今後も発展が期待されている。

文献

(1) 「電力系統へのメタヒューリスティクス応用技術」,電気学会技術報告,No. 923 (2003-6)

(2) 電気工学ハンドブック,第6版,電気学会(2001-2)

【電気学会論文誌B,131巻5号,2011に掲載】