用語解説 第9回テーマ: EMTP解析
2020/08/20
羽馬 洋之〔三菱電機(株)〕
1. EMTP とは(1)(2)
EMTP(Electro-Magnetic Transient Program)は,電力系統の定常,および過渡現象の解析を目的としたプログラムで,1966 年アメリカ政府エネルギー省(当時は内務省)ボンネビル電力庁(BPA)によって開発着手されたものである。その後,EMTP の大幅な機能向上に伴い,その汎用性,高精度,またアメリカ政府の公開主義原則によって世界的に利用が広まった。現在では,電力系統だけではなく,一般の電気・電子回路の定常・過渡現象解析ツールとして,世界標準プログラムとなっている。
EMTP では,計算機による大規模回路網の数値解析に有利な節点解析法が用いられている。また,電気回路網のアドミタンス行列が,対象かつ多数の零要素を含む疎行列(スパース行列)であることから,潮流計算などで周知のスパース処理を施すことで逆行列処理を簡略化し,計算時間を大幅に短縮している。
2. EMTP の機能と適用範囲(2)
EMTP に用意されている模擬要素には,集中定数RLC,送電線/ケーブル,変圧器,負荷/非線形要素,避雷器,電源,発電機,回転機,スイッチ,半導体スイッチ,制御回路があり,電子回路や制御ブロックのシミュレーションなどにも適用できる。詳細は文献(2)に解説されている。
EMTP には,入力データを作るためのサポートルーチンが用意されており,これを表1 に示す。
これらのサポートルーチンは,EMTP 本体プログラムに組み込まれており,EMTP データの始めのところで決められたキーワードを入力すると,このサポートルーチンが使えるようになっている。
表1 サポートルーチン
サポートルーチン名 | 機能・内容 |
CABLE CONSTANTS | 送電線・ケーブル用データ計算 |
LINE CONSTANTS | 送電線用データ計算 |
JMARTI SETUP | 周波数依存特性線路モデル計算 |
XFORMER | 変圧器用相互結合回路データ計算 |
BCTRAN | 同上 |
SATURATION | 実効値からピーク値の飽和特性換算 |
HYSTERESIS | 飽和特性からヒステリシス作成 |
NETEQV | 等価回路計算 |
3. 解析例(2)
ここでは,EMTP 解析の例として,図1 に示す誘導電動機をとりあげ,時刻0.0 秒で直入れ始動(全電圧始動)した場合の挙動を見てみる。図2,図3 に計算結果を示す。電動機の始動時には電気トルクが大きく振動し,系統に動揺を与えるが,始動後約0.3 秒で角速度が安定し,電気トルクはやや遅れて約0.35 秒後に安定することが分かる。
図1 計算系統と機械系の電気的等価回路(機械系の諸量と電気量の対応は文献(2)参照)
図2 誘導電動機の電気トルク(Te)
図3 誘導電動機の角速度(ω)
文献
(1) 雨谷昭弘:「電力系統の過渡現象シミュレーション技術の現状と今後の課題」,電学論B,Vol. 118, No. 4, pp.360-363 (1998)
(2) 電力系統の雷サージ解析体系化のための調査専門委員会:「電力システムの過渡現象とEMTP解析」,電気学会技術報告,No. 872 (2002)