用語解説 第11回テーマ: SMES

2020/08/21

竹原 有紗 〔(財)電力中央研究所〕

1. SMESとは

SMES とは,超電導コイルに磁気エネルギーを貯蔵する超電導エネルギー貯蔵( Superconducting Magnetic Energy Storage)のことである。超電導は,超電導体をある温度以下に冷却すると電気抵抗がゼロになる状態である。電気抵抗がないため,直流でいったん貯めたエネルギーは損失なく維持することができる。しかも,直接電流を流すことによって貯蔵しているため,他の貯蔵装置に比べて,高効率であり,高速の電力の出し入れが可能である。繰り返し充放電による性能低下もない。

SMES の原理を図1 に示す。充電時には系統側から交直変換器を通してコイルに流れる電流を増やし,エネルギーを貯蔵する。インダクタンスL(H)のコイルに直流電流I(A)を流すと,LI2/2(J)のエネルギーが蓄えられる。放電時は変換器を通してコイルのエネルギーを系統に放出する。SMES は超電導コイル,交直変換器に加え,コイルを低温に保持するための断熱低温容器,コイルを冷却するための冷凍機,システムを保護,監視,制御するための装置類などによって構成されている。


図1 SMESの原理(1)

2. SMESの適用

SMES は使用目的に応じて貯蔵エネルギー量と出力電力を広い範囲で設計することが可能である。用途と出力および貯蔵容量の関係を図2 に,系統制御用SMES の適用について表1 に示す。


図2 SMESの規模と用途(2)

表1 系統制御用SMESの特長(文献(3)を基に作成)

用途 特徴
瞬時電圧低下対策 20ms以下程度で動作可能なSMESを用いれば,瞬低発生時の電圧低下をある程度補償することができる。
系統安定化対策 雷撃などによる事故時に,発電機の動揺を抑制するように出力を制御することができる。
負荷変動補償 短周期から長周期に亘り,有効電力,無効電力の連続制御が可能であり,原理的に優れた特長を有している。
周波数調整 短周期のフリンジ分と呼ばれる数分単位よりも短い負荷変動分を吸収することにより,火力発電気の予備力負担を軽減することができる。

3. SMES の開発状況

SMES の開発は日米を中心に進められている。日本では,当初大学等で研究が行われ,その後電力会社で盛んに研究が進められてきた。その中で,九州電力が国内初の系統連系試験を今宿変電所構内で実施した。その後,アメリカでは世界に先駆けて複数台のマイクロSMES が実系統に導入され,系統の安定度向上に寄与した。日本では系統制御用SMES について,1991 年から国家プロジェクトとして多機能SMES の研究開発が進められ,フェーズ1 では要素技術開発と,パイロットプラントの試作・試験を実施した。さらにフェーズ2 において,日光の水力自家発電所の系統の
中にSMES を連系し,2007 年に系統制御効果の実証試験が行われた。現在も実用化に向け,低コスト化,コンパクト化などの研究が行われている。瞬低対策用として,三重県亀山市の液晶テレビ工場において5MVAのSMES を接続し,2003 年よりフィールド試験が行われた。現在,2 台目の出力10MVA の瞬低対策用SMES が実運用されている。

文献

(1) 鈴木光政・阿部雅人・小高淳・小寺純弘・佐久間大・中村圭介:「超電導を利用して安定な電力を供給-超電導電力貯蔵装置を取材して-」,電学誌,Vol. 128, No. 2, pp.70-73 (2008-2)

(2) 電気工学ハンドブック,第6版,電気学会 (2001-2)

(3)「超電導電力機器の仕様と特性」,電気学会技術報告,No. 946 (2003-11)

【電気学会論文誌B,131巻,9号,2011に掲載】