用語解説 第12回テーマ: 固体酸化物形燃料電池
2020/08/21
青木 信 〔富士電機(株)〕
1. 燃料電池とは
(1) 燃料電池の概要
燃料電池は水素などの燃料と酸素を電気化学反応させて電気を発生させる発電システムである。燃焼を伴わず発電することから,発電容量が小さくても発電効率が高い,騒音や排気ガスが非常に少ないといった特徴をもつ。
1~100kW 規模の定置用システムが商品化されており,燃料には都市ガスや下水消化ガスなど炭化水素ガスがシステム内で水素に変換(改質)され使用されている。酸素は空気として供給される。上述の優れた環境適応性を活かして,家庭やビル・病院,下水処理場など電気を消費する場所に設置され,発電に伴い発生する熱も利用するコー・ジェネレーションシステムとして使用されている。発電効率に排熱利用効率を加えた総合効率は最高90%に達し,省エネルギー・CO2 削減に向けて有力な選択肢となっている。
発電システムの中枢となる電池スタックは,電解質層を挟んで配置される正極と負極から構成される電池セルを,数十から数百個,電気的に直列に接続して構成される。
(2) 燃料電池の種類
燃料電池は,使用される電解質の材料により分類され,運転温度が異なる。(図1)宇宙用に次いで,電解質にリン酸を使用する,りん酸形燃料電池が100kW 級のコー・ジェネレーションシステムとして商品化され,世界各地で稼動している。2009 年には,電解質に高分子フィルムを用いた固体高分子形燃料電池を使った1kW クラスの家庭用燃料電池システムが国内で販売開始された。同タイプの燃料電池は,自動車用の動力源としても実用化が期待されている。
図1 主な燃料電池の種類
2. 固体酸化物形燃料電池
(1) 原理
固体酸化物形燃料電池は,酸素イオン導電性を有する酸化ジルコニウム(安定化ジルコニア)等の,セラミックス電解質を使用した燃料電池である。発電原理を図2 に示す。緻密で薄い電解質層の片面には,正極として触媒作用を有する多孔質のセラミックス層(La1-xSrxMnO3 など)が形成され,空気中の酸素を酸素イオ
ンに乖離する。酸素イオンは電解質層を通り,電解質層のもう一方の面に形成された負極に至る。負極は触媒作用を有するニッケルと酸化ジルコニウムの多孔質層で,酸素イオンと水素を反応させて水を生成する。反応の過程で負極において発生する電子が外部回路で仕事をして正極に流れることで発電する。
図2 固体酸化物形燃料電池の発電原理
(2) 特徴
固体酸化物形燃料電池は燃料電池の中で最も高温の800~1000℃で運転され,高い発電効率が得られる。高い排熱温度を活かし,ガスタービンとのコンバインドサイクルシステムを構成することで,更なる高効率化も可能で,実用化に向けた開発が行われている。
(3) 課題
電池スタックの構成材料には高温での使用に耐えるセラミックスや耐熱合金が使われる。コスト低減と合わせ,起動停止時の温度履歴に伴い発生する熱応力による破損をはじめとした,耐久性の確保が課題とされてきた。
(4) 開発動向
100kW 級の定置用システムを中心に開発が進められてきた。近年,100kW 定置用発電システムや1kW 級家庭用発電システムの販売開始が発表されるなど,商品化に向けた動きが加速している。今後,コスト低減,寿命・信頼性の向上が更に進むと予想される。
文献
(1) “未来エネルギーネットワークにおける水素と燃料電池”,電気学会技術報告,No. 1166 (2009-8)