用語解説 第14回テーマ: 送電用避雷装置

2020/08/21

石辺 信治 (九州工業大学)

1. 送電用避雷装置とは

送電線に落雷があると,電力線を支持するがいし装置に過電圧が生じ,その絶縁耐力を超えるとフラッシオーバが発生して送電線事故となって,停電や瞬時電圧低下が生じる。送電線事故の約40%が雷に起因しており(1),これを抑制するための効果的な施策として,送電用避雷装置(Line surge arresters: LSA)の適用がある(図1)。


図1 雷による2回線同時事故対策の効果比較例(1)

LSA は,表1 に示すように,気中ギャップと避雷要素部(酸化亜鉛素子を内蔵)からなるギャップ付送電用避雷装置(Externally gapped line arresters: EGLA)とギャップ無し送電用避雷装置(Non gapped line arresters: NGLA)に大別される。

表1 送電用避雷装置の種類と特徴

日本ではEGLA が一般的で,図2 のように,がいし装置に過電圧が加わると,最初に気中ギャップで放電してがいし装置を保護する。気中ギャップと避雷要素部には,雷による放電電流が流れた後,系統電圧による電流(続流)が流れるが,酸化亜鉛素子の特性により続流は非常に小さく(mA オーダ)に絞られ半サイクル以内に気中ギャップで消弧されるため,変電所の遮断器が動作しない。常時は気中ギャップにより切り離されており,開閉サージや短時間過電圧に対して動作しないように設定されているため,避雷要素部を小形・軽量化でき,万一の避雷要素部の故障時も送電線の運転が継続できる特長がある。


図2 ギャップ付送電用避雷装置の動作説明(1)

一方NGLA は,動作原理は変電所の避雷器と同じでシンプルで,開閉サージに対しても動作して抑制する。万一の故障時にも速やかに再送電ができるように,切り離し装置を設けるのが一般的である。

2. 歴史と最近の技術動向

日本では,1980 年代前半にNGLA の研究が行われたが,1980 年代中頃から,万一の故障時の運転継続性と小形軽量化の点で優れているEGLA が主流となり,急速に適用拡大している。2 回線同時事故を防止することを目的に,片回線の全鉄塔にEGLA を取付けるのが一般的で,2009 年時点で既に23 万相以上が設置されている。2000 年代初頭からは,放電電流仕様の合理化と避雷要素部の技術進歩により大幅に小形軽量化した,コンパクトタイプが主流になっている(2)

海外では,韓国,中国などでEGLA が,アメリカなどでNGLA が多数適用されている。またヨーロッパ,南米,東南アジアでもNGLA が試験的に導入されて効果をあげている。海外では,雷事故の多い鉄塔に部分的に適用する例が多く,架空地線省略あるいは開閉サージ抑制による送電線昇圧という適用効果も検討されている(1)

文献

(1) 電力用避雷器の将来へ向けた技術展望調査専門委員会:「避雷器の技術展開でみる日本の電力技術」,技術報告,No. 1132 (2008)

(2)H. Murata, M. Miyazaki, M. Miki, and H. Motoyama: “Long Term Study of Line Arrester with External Series Gap Applied to Transmission Lines in Japan”, CIGRE C4 Colloquium in Kuala Lumpur, 16-19 May (2010)

【電気学会論文誌B,131巻,12号,2011に掲載】