用語解説 第16回テーマ: 標準雷インパルス波形
2020/08/22
松本 聡 (芝浦工業大学)
1. 過電圧の種類
電力設備や電力系統には様々な過電圧が発生する。これらの設備や系統で使用される高電圧機器はいずれの過電圧にも耐えられるよう絶縁設計がなされている。表1 は過電圧の種類を分類したものである(1)。このうち,自然現象である雷によるサージ(波動)を外雷と呼ぶ。これに対して機器の運転や操作に起因して発生するサージを内雷と呼ぶ。自然現象である雷はサージ波形,継続時間,電荷量など種々の物理量やパラメータがあるが,絶縁設計上重要である電圧波形については国際規格であるIEC60060-1 において1.2/50μs を標準雷インパスル波形とすることが決められている。
表1 過電圧の種類
2. 雷インパルス電圧の発生とオーバーシュート
雷インパルス電圧はコンデンサを用いた多段式インパルス電圧発生装置により発生させる。試験電圧の値は機器が高電圧化するにつれて高くなるため,インパルス電圧発生装置も大型化し高さが20m 以上になる装置もめずらしくない。このような場合,試験回路のインダクタンス成分により波高値付近にオーバーシュートが発生しやすくなる。インパルス試験回路の等価回路の例を図1 に示す。図において,CS はインパルス電圧発生装置の充電用コンデンサの静電容量,C0 は供試物の静電容量を含めた供試物端子間の静電容量,RS とR0 は波形調整用の抵抗である。また,LS はインパルス電圧発生装置の充電用コンデンサならびに配線などに起因する残留インダクタンスである。図1 の回路は解析式が得られており,以下の様に波形評価が可能である。
図1 雷インパルス電圧発生回路の等価回路例
図2 はオーバーシュートを含む雷インパルス波形の解析例である(2)。また,図3 は図中に示す2 種類の回路定数に対して,残留インダクタンスとオーバーシュート率との関係を計算したものである(2)。図において,“Oscillation” と表記してある右側の領域は振動波となり,左側の領域は振動のない波形である。図より振動波の領域では,回路定数にもよるがインダクタンスが大きくなるとほぼ比例的にオーバーシュート率が大きくなる。前述のIEC 規格ではオーバーシュート率が10%以下となることを要求している。
図2 振動波を含む雷インパルス波形(1.2/50μs)
図3 残留インダクタンスとオーバーシュート率との関係
文献
(1) 河野照哉:「系統絶縁論」,コロナ社,p.7 (1980)
(2) 松本 聡:「インパルス電圧発生回路の残留インダクタンスが雷インパルス電圧波形に及ぼす影響について」,電学論B,Vol.127, No.11, pp.1213-1218 (2007)