用語解説 第21回テーマ: 直流CV ケーブル
2020/08/23
村田 義直 〔(株)ジェイ・パワーシステムズ〕
1. はじめに
「CV ケーブル」とは,「Cross-linked polyethylene insulated poly-Vinyl-chloride sheathed Cable」のC とV を使った,いわゆる和製英語であり,「架橋ポリエチレンで絶縁された,ビニルシース付きのケーブル」という意味になる。しかしながら,広く一般的には,架橋ポリエチレンで導体が絶縁被覆されたケーブルのことをCV ケーブルと呼んでいる。ちなみに,海外でCV Cable と言っても通用せず,英語では,XLPE Cable と表記する。
「直流CV ケーブル」とは,「直流送電用のCV ケーブル」を意味する。一般に電力の送電は,交流送電にて実施されており,単にCV ケーブルと言えば,「交流送電用のCV ケーブル」のことを指す。本稿では,これらを「交流CV」,「直流CV」と区別して表記する。
2. 直流用としての特徴
交流CV ケーブルは,交流電圧に対して優れた絶縁性能を発揮する。しかしながら,直流電圧を印加した場合,十分な絶縁性能を発揮することができない。その理由のひとつとして,直流電圧下で空間電荷が蓄積することが挙げられる。“空間電荷”については,本年3 月号の用語解説にて取り上げられているので参照されたい。直流CV ケーブルでは,直流電圧下でも空間電荷の蓄積が少ない,特殊な架橋ポリエチレン(DC-XLPE)が適用されている。DC-XLPE では,交流用の架橋ポリエチレンに比べて,直流電圧下において,以下のような特徴を有している(1)。
① 体積抵抗率が高い
② 空間電荷蓄積が少ない
③ 直流絶縁破壊強度が高い
④ 直流寿命が長い
図1 に一例として,直流500kV 海底CV ケーブルの外観を示す。直流CV ケーブルは,中間接続部や終端接続部なども含めた直流送電システムとしての多くの実証試験が実施されている(2)。直流CV ケーブルは,導体温度90℃での運用が可能であり,また,直流送電に特有な極性反転運転にも耐えることが可能である。
図1 直流500kV海底CVケーブル
3. 技術展望
日本国内の直流送電は,北海道と本州を結ぶ北本連系線,および四国と本州を結ぶ紀伊水道直流連系線がある。
これらの直流連系線には,紙と油で絶縁層を構成するOFケーブルが適用されている。直流CV ケーブルは,絶縁油を用いないため,環境に優しい新しい技術として注目されて
いる。
直流送電は,従来は大陸間を連系するような長距離送電への適用が主であったが,最近では,洋上風力発電への適用も増加傾向にある。洋上風力発電は,再生可能な自然エネルギーとして,特に欧州で盛んに導入が進んでいる。風力発電設備は,はじめは陸に近い海域に設置されていたが,導入が進むにつれてスペースの制約により設置場所は沖合へと移っている。このため風力で発電した電力を陸地まで送電するための距離が長くなってきている。このことから,洋上風力電力の送電技術として,直流CV ケーブルに注目が集まっている。
直流CV ケーブルは,大容量長距離送電への適用のみならず,今後は,洋上風力やメガソーラーといった自然エネルギー技術,あるいは,スマートグリッド技術などと相俟って,自然に優しく高効率な送電を担う技術として,その適用拡大が期待されている。
文献
(1) 村田義直・片山知彦:「高分子絶縁材料の絶縁破壊特性と空間電荷特性」,平成24 年電気学会全国大会シンポジウム,Vol.2, 2-S3-2 (2012)
(2) Y. Murata, K. Abe, M. Suizu, S. Mashio, O. Matsunaga, and S. Katakai : “HVDC XLPE Cable Systems Applicable for Higher Temperature and Polarity Reversal Operation”, 8th International Conference on Insulated Power Cables (Jicable), B.4.1 (2011)