用語解説 第23回テーマ: ナトリウム-硫黄電池
2020/08/23
片岡 泰宏 〔東京電力(株)〕
1. ナトリウム-硫黄電池とは
一般的に,ナトリウム-硫黄電池とは,ナトリウムイオン(以下,Na+)と硫黄の化学反応で充放電を繰り返す蓄電池(二次電池)である。
1967 年に米国のFord 社が,ナトリウム-硫黄電池の作動原理を発表して以来,実用化に向けて多くの研究が行われ,現在は定置型の電力貯蔵用として日本で開発された製品が実用化されている。
2. ナトリウム-硫黄電池の原理
ナトリウム-硫黄電池の電気化学反応は以下の式(1)で表される。
電気化学反応によるナトリウム-硫黄電池の原理(電子の流れ)を図1 に示す。作動温度は300~350℃で,電圧は約2V である。ナトリウムの融点は97.8 ℃,硫黄の融点は112.8℃なので,作動温度ではいずれも融解して液体になっている。電極活物質が液体であるため,電極での反応が進行しやすく,電流を取り出しやすいという利点がある(2)。
図1 ナトリウム-硫黄電池の原理(電子の流れ)
3. ナトリウム-硫黄電池の構造
ナトリウム-硫黄電池は図2(a)のような単電池で使用されることはなく,図2(b)のような多数の単電池を接続したモジュール電池で使用される。
図2 ナトリウム-硫黄電池の構造
(1) 負極(ナトリウム)
金属ナトリウム電極(Na+/Na)の標準電極電位は−2.714V であり,リチウム電極(Li+/Li)の−3.045V に近い非常に卑な(低い)電位であるため負極材料として優れている(2)。
(2) 正極(硫黄)
硫黄は比容量が大きいため高エネルギー密度の電池を構成できる可能性があるが,電子伝導性が極めて低いことから,融解した状態のものを導電性の炭素電極上で反応させることにより欠点を克服している。
(3) 固体電解質(ベータ-アルミナセラミックス)
電解質とセパレータの機能を担っているのが固体電解質のベータ-アルミナである。ベータ-アルミナは普通のアルミナとは異なり,Na+だけを通す性質のあるセラミックスで,Na2O・nAl2O3 で表されるNa とAl を含んだ酸化物である。
4. ナトリウム-硫黄電池の特徴
- ナトリウムや硫黄といった主要構成材料が資源的に豊富なことから,量産化によりコストダウンが可能。
- 鉛電池の約3 倍の高エネルギー密度。
- 充放電効率が高く,自己放電がないため効率的に電気が貯蔵可能。
- 4500 回の充放電が可能で,長期耐久性に優れる。
- 高温作動型電池のためヒータが必要(300℃程度)。
- ナトリウムと硫黄といった消防法の危険物に指定されている材料を使用しているため,取り扱いに注意を要する。
文献
(1) 電池便覧編修委員会編:増補版電池便覧,pp.284-291,丸善 (1995)
(2) 小久見善八・西尾晃治:図解 革新型蓄電池のすべて,pp.44-46,工業調査会 (2010)