用語解説 第24回テーマ: ヒートポンプ

2020/08/23

久保田康幹 〔富士電機(株)〕

1. はじめに

ヒートポンプは,熱を移動させる装置である。私たちの身近には,たとえば,空気の熱を吸収して,空気より高温の熱を作り出して,お湯を生成するエコキュートや空気から熱を奪ってより冷気を作り出すエアコンなどがある。

このような技術を可能にするのは,冷媒と呼ばれる物質を圧縮したり,膨張させたりして温度を上げたり下げたりすることによって冷媒の温度を自在に操り,目的の温度の冷媒と熱交換して,冷熱や温熱を取り出している。

2. ヒートポンプの原理

図1 はヒートポンプの原理を示す機器構成例を,図2 は冷媒の状態の変化を示すP-h 線図を示す。冷媒は[1]では低圧のガスである。この状態のガスを圧縮機で圧縮すると,高温,高圧の状態[2]になり,凝縮器で冷媒を凝縮させて([3]の状態),温熱を取り出す。この[3]の状態から膨張させて圧力を下げると冷媒は一部がガスになる2 相状態となって,温度も下がる([4]の状態)。さらに蒸発器で外部から熱を吸収して,冷媒はガスに戻る。このときの冷媒が吸収する熱を冷熱として利用する。ヒートポンプは液体から気体になる蒸発潜熱とその逆の凝縮潜熱を利用している。通常,蒸発潜熱は,気体や液体を相変化なしで加熱,冷却する場合の熱量よりも何倍も大きい(たとえば,水は熱容量の大きい物質の1 つであるが,1 時間に1kg の水を0℃から100℃に昇温する熱量は約0.12kW であるが,1kg の100℃の水を100℃の蒸気にするには0.63kW の熱量が必要である)。


図1 ヒートポンプの機器構成例


図2 P-h 線図(R410Aの例)

ヒートポンプの性能を示す指標はCOP である。COP とは,Coefficient of Performance の略で,ヒートポンプで得られる熱量(単位はkW)をヒートポンプに投入した電力(単位はkW)で割った値である。たとえば,5kWの冷熱を取り出すときの電力が1kWとすると,COP は,5/1=5 となる。

3. ヒートポンプと地球温暖化

このように,ヒートポンプは利用できる熱量に対して,入力するエネルギーが少なくてすむため,省エネ機器として普及している。

しかし,ヒートポンプに使われる冷媒(主にフロン類)はオゾン層破壊物質であったり,地球温暖化物質でもあるので,HFC 冷媒(ハイドロフルオロカーボン)への転換が進められてきた。しかしながら,HFC 冷媒はGWP(地球温暖化係数Global Warming Potential)が大きく,大気放出時の温暖化への影響は大きいため,運転中や廃棄時に洩れることが懸念され,削減の努力が行なわれている。

EU では,カーエアコンの冷媒には,GWP での規制を導入した。2011 年以降に上市する自動車において,GWP が150を超える冷媒ガスの使用を禁止する等の規制が実施された。

この規制がきっかけとなり,家庭用や業務用・産業用ヒートポンプの冷媒もGWP の小さいものを採用するための開発や,二酸化炭素,水,アンモニアなどの自然冷媒を使ったヒートポンプの開発が行なわれている。

4. ヒートポンプの開発動向

ヒートポンプは,地球温暖化防止に寄与する技術である。国の「Cool Earth-エネルギー革新技術計画」に取り上げられ,ヒートポンプ単体の効率向上(圧縮機,熱交換器等の効率化,小型化)や,低GWP 冷媒や自然冷媒を使ったヒートポンプの開発に加えて,熱源側,利用側を含めたシステムとしての高効率化(1)などの技術開発が行なわれている。

文献

(1) NEDO:「次世代型ヒートポンプシステム研究開発」,http://www.nedo.go.jp/activities/FK_00207.html

【電気学会論文誌B,132巻,10号,2012に掲載】