用語解説 第25回テーマ: 化合物薄膜太陽電池

2020/08/23

森川 弘基 〔東京電力(株)〕

1. はじめに

普及が進む太陽光発電は交直変換器や配線など様々な機器で構成されているが,最も基本的な素子は太陽電池である。太陽電池の内部では,太陽の光エネルギーを受けた電子が光起電力効果により原子核から飛び出して自由電子となっている。太陽電池は,半導体の特性を利用して,この自由電子を電力として取り出す。

太陽電池に用いられる半導体は,シリコン系,化合物系,有機物系に大きく分類される。現在の主流は結晶シリコンを用いたものであるが,新たなタイプの太陽電池として化合物系の薄膜太陽電池(CIGS)が注目を集めている。

2. 高効率化が期待される化合物薄膜太陽電池CIGS

CIGS は,銅(Cu),インジウム(In),ガリウム(Ga),セレン(Se)の頭文字を取ったもので,開発の経緯からCISやCIGSS とも呼ばれている(2 つめのS は硫黄)。吸収する太陽光の波長域が違う2 つの化合物(CuInSe2 とCuGaSe2)を混晶にしたもので,混晶の割合によって吸収波長域が制御可能であり,多接合化の可能性もあることから高効率化に向けた技術開発が進んでいる。


図1 化合物薄膜太陽電池の構造概要

また,光吸収係数が大きいため,結晶シリコン太陽電池に比べ膜厚が100 分の1 程度と薄く,使用する原材料が少ない。さらに,インジウム以外は入手が容易な金属を用いていること,製造工程が自動化しやすいことなどから,コスト,投入エネルギーの点で有利と言われている。

結晶シリコンに比べまだ効率が低く,各層の膜質向上などで課題を克服する必要があるものの,性能が大きく向上する可能性のある化合物薄膜太陽電池は,今後さらに拡大する太陽光発電市場の主流となることが期待される。

【電気学会論文誌B,133巻,3号,2013に掲載】