用語解説 第43回テーマ: 高温超電導

2020/08/27

福井 聡 (新潟大学)

1. はじめに

1986 年にJ. G. Bednorz とK. A. Müller により,La-Ba-Cu-O 系の酸化物が超電導体であることを見出した。これを契機に,新しい超電導体の探索が展開され,1987 年にはY-Ba-Cu-O 系の酸化物が液体窒素温度で完全に電気抵抗がゼロになることが見出された。更に翌年には,Bi-Sr-Ca-Cu-O 系やTl-Ba-Ca-Cu-O 系で臨界温度(常伝導状態から超電導状態に転移する温度)が100K を超えることが確認された。これらはいずれも,従来の低温超電導体の使用温度の4.2K 付近に比べて高い臨界温度を有することから,高温超電導体と呼ばれ,その超電導現象を総称して高温超電導という。応用対象の特性に応じて,高い温度範囲(20~77K)を自由に選択できることから,低温超電導ではメリットの見出せなかった分野へ応用が拡大できることが期待されている。

2. 高温超電導線材

高温超電導を電力機器へ応用するには,電流媒体となる線材に加工する必要がある。高温超電導体は基本的に脆性材料であるため,そのままでは可とう性のある線材に加工できない。また,高温超電導体はペロプスカイト構造を基礎とした2 次元構造で,Cu-O 面がシート状に連なり,それに沿って超電導電流が流れる。線材開発の当初は,このような材料学的な2 次元性が線材化を阻んでいた。近年ではこの問題も解決され,高い臨界電流を有する長尺線材が開発された。現在,工業製品として入手可能な高温超電導線材は,Bi-Sr-Ca-Cu-O 系材料を用いたもの(1)とY-Ba-Cu-O系材料を用いたもの(2)(3)が主流である。

3. 高温超電導電力機器

線材開発の進展を受けて,各種電力機器へ高温超電導を応用する研究開発がさかんに行われている。高温超電導線材は,高温側では比較的低磁界で臨界電流が低下する特性があることから,線材の経験磁界が小さい電力ケーブルへの応用研究がまず進展した。その後,大型風力発電や船舶推進への応用を想定した数~10MW 級の同期回転機へ高温超電導を応用するための研究なども推進されている。

文献

(1) http://www.sei.co.jp/super/hts/index.html
(2) http://www.fujikura.co.jp/rd/field/mt.html
(3) http://www.furukawa.co.jp/kenkai/profile/superpower.htm(リンク切れ)

【電気学会論文誌B,134巻,10号,2014に掲載】