用語解説 第50回テーマ: 電力系統解析と同期位相計測

2020/08/28

三谷 康範 (九州工業大学)

1. 電力系統安定度と位相

一機無限大母線系統の発電機出力は発電機内部電圧Vg と無限大母線電圧Vを用いて次式で表される。

これにより電力相差角曲線が定義され,よく知られているように,そこから定態や過渡安定度などの各種安定度が議論される。ここで δ が発電機内部電圧と無限大母線電圧の位相差である。一方,大規模な電力ネットワークにおいて,母線電圧の大きさと位相並びに母線間のアドミタンスがわかれば,各所の有効電力と無効電力の流れが直接的に計算できる。このように位相角は電力系統解析において非常に重要な要素となる。近距離母線間の位相角差は1 つの計測器で直接両電圧を同時に計測すれば比較的簡単に把握できるが,距離が遠くなれば,計測が困難となる。両電圧を異なる計測器で計測することになり,計測器間の時刻情報が同一でなければ位相差を定義できないからである。

以上のように,位相角情報を得るには時刻同期を行う必要があり,そのための手段として,GPS (Global Positioning System) 衛星からの正確な時刻情報を利用できる。

2. 位相角の計算方法

正確な時刻が定まると,そこから計測した電圧瞬時値データを用いると,電圧フェーザ演算は次式で計算される((2)に計算例を公開しているので各自計算を試みられたい)。

ここで,N は電圧一周期あたりのサンプル数,θ =2π /N,Vkは瞬時電圧サンプルデータである。これから電圧位相角は

となる。実用的問題として,高調波や歪の修正方法,過渡的な変化分に対する計算方法など標準化がなされている。

 

文献

(1) 豊田淳一,他:「GPS・インターネットを用いた高精度フェーザ計測ユニットの開発」,平成12 年電気学会B 部門大会,A-162,p.48,札幌 (2000-8)

(2) https://webdisk-t.isc.kyutech.ac.jp/public/uIXMwALKXMyA50sBdaJKT8_eizmCTwX9Is2Q0dzhXBzc(公開期限:H27.11.30)(リンク切れ)

【電気学会論文誌B,135巻,5号,2015に掲載】