用語解説 第52回テーマ: 鉄道向け き電用変圧器

2020/08/31

青坂 直哉 〔(株)東芝〕

1. き電用変圧器とは

日本で使用される交流電化方式の鉄道車両は,そのほとんどが単相交流方式を採用している。そのため電気車両に一般的な三相交流系統から電力を供給するためには,三相交流から二相交流に変換を行う必要があり,変換した二相交流の各相を単相交流として供給する。この相変換を行う一つの手段として相変換変圧器が用いられており,こうした鉄道向けの相変換変圧器のことを,き電用変圧器と呼ぶ。

2. き電用変圧器による相変換

き電用変圧器の結線方式には,ウッドブリッジ結線方式やルーフデルタ結線方式等いくつかの種類があるが,そのうち最も広く使われているスコット結線方式の変圧器の回路を図1 に示す。単相変圧器2 台を用いて三相入力から位相角が90° 異なる単相交流を2 回路取り出し,その単相出力の2 回路にそれぞれ同容量の負荷を接続することでトランスの入力電流を等しくさせ,三相電源の平衡を得るのが特徴である。スコット結線方式の変圧器は,交流電化方式の鉄道向けの他,電気炉等,比較的容量の大きな単相負荷を三相回路から見て平衡負荷としてとりたい場合に広く利用されている。


図1 スコット結線方式変圧器の回路図

3. 交流き電システム

交流電化方式の鉄道は,運転状況に応じて負荷が変動するため,2 回路の負荷の容量が異なる時間帯も多く,三相入力側に電圧の不平衡や電圧変動が生じる問題がある。これに対し,鉄道事業者は電力融通方式電圧変動補償装置(RPC:Railway static Power Compensator)等を用いて2 回路間の有効電力の融通や無効電力の補償を行い不平衡等の問題を解決している。このような,き電用変圧器やRPC 等の機器を組み合わせて構成した交流き電システムにより,信頼性の高い安定した交流電力を鉄道車両に供給する事が可能となっている。

【電気学会論文誌B,135巻,7号,2015に掲載】