用語解説 第57回テーマ: 変圧器の流動帯電

2020/09/23

林 雅明 〔中部電力(株)〕

1. はじめに

流動帯電とは,液体が固体表面を流動した場合,液体と固体表面に電荷分離が生じる静電気現象のことである。したがって,変圧器の冷却のためポンプで油を循環させる導油式変圧器においては,絶縁油と油道周辺の絶縁物との間で流動帯電現象が発生しやすく,最悪の場合,変圧器の絶縁破壊に至ることがある。

2. 発生メカニズム

絶縁油が流れることにより,絶縁油と絶縁紙などの固体絶縁物の界面で,電荷移動,電荷分離の過程を経て,絶縁油に正イオン,固体絶縁物に負イオンが発生する。

発生したイオンは通電路や絶縁油中において緩和し,帯電イオンは次第に電気的に中和,消滅する。

しかし以下の要因などにより帯電過程が起こりやすく,緩和過程が起こりにくい条件が揃うと,イオンの蓄積が増大し,これによる直流電界が絶縁物内あるいは絶縁物表面の放電限界を超えると静電気放電が生じる。

①絶縁油中のイオンの種類など材料要因
②変圧器の導油構造による油流速など構造的要因
③絶縁油と絶縁物の主成分の酸化劣化など経年的要因

3. 主な抑止方法

(1) 絶縁油

油の帯電度が流動帯電に影響するため,流動帯電抑制剤としてベンゾトリアゾール(BTA)が標準的に添加されている。また絶縁油が酸化すると高帯電度化しやすくなることから,窒素ガスやゴム膜などにより外気を遮断する対策がとられている。

(2) 機器設計

油の循環は変圧器の冷却に必要であるが,流速は流動帯電に大きく影響を及ぼすため,適切な流速となるよう配慮が必要である。また流路の乱流によって部分的に流速が大きくならないよう,流路断面積の急激な変化や絶縁物端部の角部を無くすなど,構造上の配慮がなされている。

文献

(1) 「電力用変圧器改修ガイドライン」,電気協同研究,Vol.65, No.1 (2009)

【電気学会論文誌B,135巻,12号,2015に掲載】