用語解説 第72回テーマ: 鉄損

2020/09/28

宮城 大輔 (東北大学)

1. はじめに

回転機や変圧器などの鉄心には,電磁鋼板と呼ばれる強磁性体が用いられるが,強磁性体に交流磁界を印加すると,鉄損と呼ばれるヒステリシス損と渦電流損から成る損失が生じる。例えば,変圧器の損失は,負荷損,無負荷損と漂遊負荷損から成り,巻線に電圧が印加されたときに鉄心内に発生する磁束によって生じる無負荷損は,そのほとんどが鉄損である。鉄損の発生要因や特徴を理解することは,低損失な高効率電気機器を設計するために重要である。

2. 鉄 損

磁性体は磁界が印加されると磁化されるが,印加磁界が増加するときと減少するときで磁化過程が異なる。そのため,磁性体に交番磁界を印加すると,磁性体内の磁界の強さと磁束密度の関係はヒステリシスを有し,磁界の変化によってヒステリシスループを一周するごとに,そのループの面積と等しい損失,すなわち鉄損が生じる。特に,磁性体内に渦電流が流れないように準静的に磁界を変化させたときのヒステリシスループを直流ヒステリシスループと呼び,この面積から得られる損失が交番磁界1 サイクル当たりのヒステリシス損である。ゆえに,電力の単位であるワットで表される1 秒間当たりのヒステリシス損は周波数に比例する。また,一般的に,保持力の小さい材料ほど直流ヒステリシスループの面積は小さくなるため,ヒステリシス損は小さく,透磁率は大きくなる。

磁性体が導体である場合には,交番磁界により磁性体内での磁束の変化が渦電流を誘起し,渦電流損が生じる。1 秒間当たりの渦電流損は,表皮効果を伴わない場合,電気導電率に比例し,板厚,最大磁束密度,周波数のそれぞれの2 乗に比例する。ゆえに,渦電流損を低減するため,鉄心は薄板である電磁鋼板を積層した構造が一般的である。

電磁鋼板は,無方向性電磁鋼板と方向性電磁鋼板とに大別される。無方向性電磁鋼板は,磁気異方性が比較的小さい材料で,エプスタイン試験法(1)に従い,周波数50Hz 時の最大磁束密度1.5Tの磁束密度正弦波励磁のときの単位重量当たりの鉄損の大きさ(圧延方向とそれに対する直角方向の平均)から各グレードに分類される。例えば,35A270 グレードは,「35」は鋼板の厚さ0.35mm を,「A」は無方向性を,「270」は周波数50Hz 時の最大磁束密度1.5T 正弦波励磁における鉄損値が2.7W/kg 以下であることを表している。

文献

(1) JIS C 2550-1: 2011:「電磁鋼帯試験方法 第1 部:エプスタイン試験器による電磁鋼帯の磁気特性の測定方法」

【電気学会論文誌B,137巻,3号,2017に掲載】