用語解説 第82回テーマ: 故障アーク

2020/09/30

岩田 幹正 〔(一財)電力中央研究所〕

1. はじめに

ケーブル,変圧器,電線,スイッチギヤなどの電力機器には高電圧が常時印加されているが,ポリエチレンなどの固体,絶縁油などの液体,空気などの気体により,それぞれ絶縁されている。しかし,雷・地震といった自然災害や上記の絶縁媒体の経年劣化などにより電力機器において絶縁破壊が生じ,地絡・短絡故障による大電流のアーク放電が発生する場合がある。このときのアーク放電を故障アークと呼ぶ。

2. 故障アークの特徴

空気中で発生させたアーク放電の様相を図1 に示す。アーク放電はその温度が極めて高く数千度~ 1 万度程度である。このため,故障アークにより,電力機器における各種絶縁媒体や機器を構成する各種金属部材は瞬時に加熱される。ポリエチレン等の固体絶縁材や銅・鉄・アルミニウム等の金属部材は溶融・蒸発し,電線の場合には断線することもある。また,絶縁油はその一部が分解されて水素等の可燃性ガスが発生し,空気等の気体は熱容量が比較的小さいためその温度が急激に上昇する。このような事象が電力機器において発生すると,機器内の圧力が急激に上昇しそれが音速で伝搬するため,機器の破損,破損箇所からの高温ガスの噴出により公衆災害に至る場合もある。


図1 空気中のアーク放電(電流:50kA)(1)

これらの事象の再現やその対策を検討する際には,実規模機器を対象とした短絡試験が行われる。また,試験パラメータは機器のサイズ,アークの電流,時間および発生箇所などと多いため,CFD(数値流体力学)解析技術を用いたアプローチが行われることもある。

文 献

(1) M. Iwata, et al. : IEEJ Trans. PE, Vol.125, No.8, pp.777-781 (2005)

【電気学会論文誌B,138巻,1号,2018に掲載】