用語解説 第94回テーマ: 高温超電導電流リード

2020/10/02

手嶋 英一 〔新日鉄住金(株)〕

1. はじめに

電流リードとは,超電導マグネット等の機器において,室温の電源から極低温の超電導コイルに電流を供給する通電用導体のことで,機器全体の冷却効率に大きな影響を及ぼすキー部品である。従来の電流リード用部材である銅は電気の良導体ではあるが,熱の良導体でもあるため侵入熱は大きく,超電導マグネットの冷凍機冷却は実質的には不可能であった。電流リードの低温側(主に77K 以下)に酸化物系の高温超電導材料(熱伝導率は銅の1/100 程度)を用いることによって熱侵入量を大幅に低減でき,冷凍機冷却式の超電導マグネットが初めて実現可能になった。このように高温超電導材料を用いて低温側に設置される電流リードのことを,特に高温超電導電流リードと呼ぶ。

2. RE 系高温超電導バルク電流リード

実用的な高温超電導材料には,材料系でBi-Sr-Ca-Cu-O系(以下Bi 系)とRE-Ba-Cu-O 系(RE:Y または希土類元素,以下RE 系),材料形態で線材とバルク材があり,その組み合わせで高温超電導電流リードとしては主に4 種類ある。その中で,バルク材は熱を伝えやすい銀被覆材が不要で,RE 系はBi 系よりもJc-B 特性が優れているため,RE 系高温超電導バルク電流リードには,①コンパクト,②磁場に強いという特長がある。これらの特長から,超電導マグネット装置の小型化や設計自由度向上が期待できる。

図1 にRE 系高温超電導バルク電流リードの外観と構造を示す。電流リード応用では,RE 系の中で熱伝導率が小さいRE=Dy 系が採用されている。さらに,細長く加工されたRE 系バルク材の両端に外部接続用の銅端子が半田接続されると共に,高剛性で熱伝導率が小さいGFRP 製カバーがボルト締結と樹脂接着によって二重に固定され,脆性材料の酸化物であるが,取扱いが容易で強固な電流リードを実現している。電流容量として150A 級,250A 級,500A 級,1000A 級等があり,多くの超電導マグネット装置に搭載され,その普及・拡大に貢献している。


図1 RE系高温超電導バルク電流リード外観と構造

【電気学会論文誌B,139巻,1号,2019に掲載】