用語解説 第101回テーマ: 同期機の慣性定数
2020/10/06
天野 博之 (電力中央研究所)
1. はじめに
同期機の慣性に関する定数としては,単位の取り方等により,各種の定義・名称(慣性定数,単位慣性定数,蓄積エネルギー定数等)があるため,注意する必要がある(1)。ここでは,同期機の運動方程式をもとに慣性定数と回転数・周波数変化の関係について述べる。
2. 同期機の慣性定数と回転数・周波数変化の関係
同期機のトルクと回転数変化の関係は運動方程式によって定まり,単位法で表現すると次式で表される(1)(2)。
M・dω/dt =T
ここで,M は慣性定数[kW・s/kVA またはs],ω は回転数[pu],t は時間[s],T はトルク[pu](正確には入出力トルクの差分)を表す。なお,上述のように慣性に関する定数としては各種の定義・名称があり,M を単位慣性定数と称する場合もある(3)。慣性定数は,回転体(発電機部分だけではなく一体となって回転している部分全てを含める)の質量,大きさ,定格回転数等によって定まる。上式から,作用するトルクが大きい程また慣性定数が小さい程,回転数の変化速度が大きくなることが分かる。
電力系統では多数の同期機が同期して回転しており,周波数はこれら同期機の回転数に対応している。厳密に言えば,各地点における周波数は過渡的には異なるが,これらの平均的な周波数について考えると,その変化のメカニズムは同期機の運動方程式と同様に考えることができる。すなわち,需給不均衡が発生した場合の周波数の変化速度は,並列されている同期機の慣性(慣性定数M と定格容量の積)の合計が小さい程大きくなる。今後,太陽光発電のような慣性を有していない電源の導入が増大し,並列される同期機が減少した状況下においては,電力系統としての慣性が減少し,周波数の安定性等に影響を及ぼすことが懸念されている。
文 献
(1) 谷口治人:電力システム解析 -モデリングとシミュレーション-,オーム社 (2009)
(2) 電気工学ハンドブック,第7 版 (2013)
(3) 新田目倖造:電力系統技術計算の応用,電気書院 (1981)