用語解説 第172回テーマ:ナノコンポジット絶縁
2025/07/08

宮武 亮治〔三菱ジェネレーター(株)〕
1. ナノコンポジット絶縁とは
ナノコンポジット絶縁とは,主に回転電気機械,送変電機器,パワエレ機器,高電圧ケーブル等の電力用高電圧機器において,絶縁特性(電気特性,機械特性,熱特性)の向上を目的に,ポリマー(高分子化合物)にナノサイズ(粒径1~100 nm)の無機フィラーを添加して形成した複合絶縁材料である(1)。
これらの高電圧機器では,絶縁特性が機器全体の性能(特に冷却性能)に大きく影響を及ぼすことから,ナノコンポジット絶縁の適用による機器の高電圧化,大容量化,高効率化,小型化,長寿命化などが期待される。一方で,ナノフィラーはポリマー中で凝集しやすく,均一に分散させることが難しいため,ポリマーを絶縁材料中に含浸させるときに欠陥(ボイド)を生じやすく,絶縁特性が低下するといった課題がある(2)。
ナノフィラーの材質としては,シリカ(SiO2),チタニア(TiO2),アルミナ(Al2O3),ベーマイトアルミナ(AlOOH),シリコンカーバイド(SiC),マグネシア(MgO)等がある。少量の添加でも絶縁特性や誘電特性が大きく変化する特徴があり,材料選定,製造プロセス,および品質安定化等について研究開発が進められている。
2. 大型回転電気機械への適用
タービン発電機などの大型回転電気機械の固定子コイルは,一般的に導体まわりにマイカ絶縁テープを巻き付け,エポキシ樹脂を含浸,加熱硬化して製作される。この固定子コイルの絶縁(マイカエポキシ絶縁)に長時間にわたって高電圧が印加されると,エポキシ樹脂中で微小な放電が発生し,電気トリーと呼ばれる樹枝状のパターンが形成され,これが徐々に成長することで最終的に絶縁破壊に至る。ナノフィラーをエポキシ樹脂中に均一に分散すると,ナノフィラーが電気トリーの成長を抑えることで絶縁の高耐電圧化,長寿命化が可能となる。しかし,比表面積や表面エネルギーが大きいナノフィラーはエポキシ樹脂中で凝集しやすく,均一に分散させることが困難なため,カップリング剤によるナノフィラーの表面改質や,高速せん断処理装置による樹脂との混合によって均一分散させる技術の開発が進められている。
このナノコンポジット絶縁を大型のタービン発電機に適用すると,マイカエポキシ絶縁の高耐電圧化と長寿命化が可能となるため,現状の絶縁性能を維持しつつ絶縁を薄肉化することで導体断面積を拡大することができ,発電機の効率が向上する。その効果として,発電1 GW 当たり1,000トン/年のCO2 排出量削減が見込まれる(3)。
文献
(1) 電気学会:ナノテク材料 ~ポリマーナノコンポジット絶縁材料の世界~ (2014)
(2) 今井隆浩・田中祀捷:「ポリマーナノコンポジット絶縁材料の歴史的展開」,電学誌,Vol.134, No.3, pp.161-164 (2014)
(3) 馬渕貴裕,他:「電力用大型発電機の高効率化を実現するナノコンポジット絶縁材料技術」,三菱電機技報,Vol.97, No.8 (2023)