用語解説 第121回テーマ: 生分解性電気絶縁油(エステル系絶縁油)

2021/04/21

佐藤 学 〔ユカインダストリーズ(株)〕

1. エステル系絶縁油とは

エステル系絶縁油は分子内にエステル結合(-COO-)を有する絶縁液体の総称であり,JIS では分子構造毎に3 種類(合成エステル,天然エステル,植物由来エステル)に大別され,それぞれに品質が定められている(1)

近年,循環型社会の構築に向けた取組として環境対応型電力機器の開発・実用化が世界的に進められているなか,油入変圧器等に用いられる電気絶縁油においては生分解性に優れるエステル系絶縁油の開発・適用(2)(3)が行われている。

2. エステル系絶縁油の特徴

エステル系絶縁油の特徴として①~⑤が挙げられる。

① 生分解性
一般的な油入変圧器で使用される鉱油系絶縁油と比較して生分解性が高いため,環境中に万が一漏油しても環境負荷を低減することができる。

② 防災性
合成エステルと天然エステルは引火点が250℃以上であり,消防法上の指定可燃物に該当(鉱油は危険物に該当)する。

③ 冷却特性
植物由来エステルは従来の鉱油系絶縁油よりも低粘度であるため,電力機器の冷却効率を向上できる。

④ 吸湿性
エステル系絶縁油は高い吸湿性を有する(水の溶解量が鉱油の10~20 倍)ため,絶縁紙とエステル系絶縁油を共存させると,絶縁紙中の水分が油中へ移行し,絶縁紙中水分量が低下する。絶縁紙中水分量が高い場合に絶縁紙の経年劣化が促進されることが知られており,エステル系絶縁油を使用した変圧器では絶縁紙中水分の低減により,絶縁紙の寿命を延伸させる効果が期待される。

⑤ カーボンニュートラル
天然エステルと植物由来エステルは植物より生産されるため,カーボンニュートラルとされ,化石資源の使用量削減,CO2 排出量削減に貢献する。

3. おわりに

エステル系絶縁油のJIS が制定されたことにより,エステル系絶縁油の使用環境が整いつつある。今後は,エステル系絶縁油を使用した電力機器の保守管理指針(異常診断や劣化診断など)の策定が望まれる。

文 献

(1) JIS C 2390 シリーズ 生分解性電気絶縁油-第1 部:合成エステル,第2 部:天然エステル,第3 部:植物由来エステル (2019)
(2) 石油学会:電気絶縁油ハンドブック追補版 (2020)
(3) 鈴木,他:「パームヤシ脂肪酸エステルの変圧器適用検討」,第28 回石油学会絶縁油分科会研究発表会,No.7 (2008)

【電気学会論文誌B,141巻,4号,2021に掲載】

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