用語解説 第122回テーマ: コピュラ

2021/05/06

根岸信太郎 (東京農工大学)

1. コピュラとは

世の中の確率的事象は確率分布を使ってモデリングすることができる。個々の事象が独立である場合は,それぞれを1 次元の確率分布で表すことになる。一方で,事象の間に依存構造がある場合は,多次元確率分布でそれを表現できる。多次元確率分布の代表といえば,多次元正規分布が挙げられる。ただ,正規分布に従わない事象との依存構造を表現するためにはどうしたらよいだろうか。そんなときに使えるツールのひとつがコピュラである。

コピュラとは,多変量確率分布における周辺確率分布と同時確率分布をつなぐ関数のことである。接合関数と呼ばれることもある。n 次元確率変数 x1,… , xnに関する同時分布関数 F(x1,… , xn) と周辺分布関数 F(x1),…,Fn(xn) のもとで,コピュラC を用いるとSklar の定理(1)より(1)式のような関係が得られる。

F(x1,… , xn) = C(F(x1),…,Fn(xn))・・・・・・・・(1)

ここで,任意のu=(u1,…,un)(ただし ui∈[0,1])のもとで(1)式を変形すると(2)式が得られる。

C(u1,… , un) = F(F1-1(u1),…,Fn-1(un))・・・・・・・・(2)

(2)式よりC は各周辺分布が区間[0,1] の一様分布の同時分布関数となっていることがわかる。代表的なコピュラとして,正規コピュラ,t コピュラ,クレイトンコピュラ,ガンベルコピュラ,フランクコピュラが挙げられる。これらの詳細や選択法については,専門書(2)を参照されたい。

2. コピュラの応用事例

コピュラは様々な工学分野で応用されている。例えば,多様な金融商品を扱うファイナンス分野では,早くから金融リスク評価に活用されている(3)。また,電力工学分野では複数地点の風力発電出力に関する同時確率分布を構成する方法が提案されている(4)。柔軟な確率モデリングが可能なコピュラを用いて,今後様々な工学応用がなされることを筆者は期待している。

 

文 献

(1) A. Sklar : “Fonctions de répartition à n dimensions et leurs marges”, Publ. Inst. Statist. Univ. Paris, Vol.8, pp.229-231 (1959)
(2) H. Joe : Dependence Modeling with Copulas, Chapman and Hall/CRC (2014)
(3) 戸坂凡展・吉羽要直:「コピュラの金融実務での具体的な活用方法の解説」,金融研究,Vol.24(別冊第2 号),pp.115-162 (2005)
(4) H. V. Haghi and S. Lotfifard : “Spatiotemporal Modeling of Wind Generation for Optimal Energy Storage Sizing”, IEEE Trans. Sustainable Energy, Vol.6, No.1, pp.113-121 (2015)

【電気学会論文誌B,141巻,5号,2021に掲載】

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