用語解説 第137回テーマ: 多端子直流送電

2022/08/06

中島 達人 (東京都市大学)

1. はじめに

直流送電とは,交流系統に設けた交直変換器により交流を直流に変換し,直流送電線(架空送電線およびケーブルを含む)を介して送電した後,他の交流系統に設けた交直変換器により直流から交流に変換する送電方式のことである。これまでの直流送電の多くは,二地点間を直流送電線で結ぶ「二端子直流送電」であったが,従来の他励式交直変換器(サイリスタを使用)に比べて運転性能に優れている自励式交直変換器(IGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)などのパワー半導体デバイスを使用)の導入が進んだ結果,多地点間を直流送電線で結んで送電する「多端子直流送電」の実用性が高まり,研究開発や実設備の運転開始が進んできた。多端子直流送電は,例えば図1 に示すような洋上ウィンドファーム群から陸上交流系統の複数拠点へ送電する用途や,交流系統を補強する地域間連系線の用途への適用が期待されている。

2. 多端子直流送電を支える重要技術

多端子直流送電にとって重要な技術は,多端子間で電力を授受するための制御方式と,直流送電線事故を除去して送電を続けるための保護方式である。図1 の多端子直流送電では,複数の洋上端子からの送電出力合計値に基づき,複数の陸上端子への受電電力の配分を更新していく必要がある。例えば,並列運転中の同期発電機の出力配分と周波数とのドループ特性(垂下特性)になぞらえて,陸上端子に直流電力対直流電圧のドループ特性を設けて,安定な運転点を求める手法などが提案されている。また,直流送電線事故の除去には直流遮断器の適用が考えられている。電流ゼロ点がない直流事故電流をいかにして遮断するかが検討され,機械式遮断器と半導体式遮断器のハイブリッド構成なども提案されている。数ms 程度の高速遮断動作が可能な直流遮断器の研究開発例も報告されている。


図1 多端子直流送電システムの構成例

【電気学会論文誌B,142巻,8号,2022に掲載】

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