用語解説 第138回テーマ: 超電導磁気分離技術

2022/09/02

中村 一也 (上智大学)

1. 超電導磁気分離技術とは

磁気分離とは,混合物の中から目的の物質を物質の磁気的性質の差を利用して分離する技術である。古くは砂鉄や鉄鉱石の分離収集で利用されている。1970 年代に入り,フェライト化法と磁気分離技術の結合及び高勾配磁気分離技術の発明により,磁気分離技術が著しく発展した(1)。特に高勾配磁気分離技術は,超電導マグネットの高磁場と組み合わせることによって,従来の常電導マグネットに比べて分離の高速・大量処理が可能となった。2000 年以降,超電導磁気分離技術は鉱物の分離や排水処理以外の研究開発も活発に行われている。

2. 超電導磁気分離の研究開発動向

現在,超電導磁気分離技術は様々な分野で研究開発をされている。その例を以下に示す。
≪火力発電所ボイラー給水中の酸化鉄スケール除去(2)≫
火力発電所の運転に伴い,給水配管に酸化鉄スケールが発生することによって発電効率の低下を引き起こすことが知られている。この問題に対し,超電導磁気分離法で酸化鉄スケールを除去することにより,発電効率低下の抑制を行う研究がなされている。これにより発電によるCO2 の削減が期待される。
≪セシウム汚染土壌減容化(3)≫
福島県内の除染により発生した大量の除去土壌は中間貯蔵施設にて保管されている。これらに超電導磁気分離を施し,土壌中成分の中でセシウムを強く吸着する常磁性の粘土鉱物の選択的分離を行うことで,セシウム汚染土壌をさらに分離処理する手法を開発している。
≪海水中のマイクロプラスティックの分離(4)≫
海水中には人類が放出したマイクロプラスティックが多量に存在する。それらを除去することが海洋環境の改善につながる。マイクロプラスティックを除去するために超高磁場を発生させる第二世代高温超伝導体を用いた超電導磁気分離技術の開発を行っている。

3. おわりに

超電導磁気分離技術は環境保全,資源回収,廃棄物リサイクルなど様々な分野で有効な技術として盛んに研究が行われている。この技術は,エネルギー・地球環境問題を克服する革新的技術として期待されている。

文献

(1) 仁田旦三:超電導エネルギー工学,電気学会・オーム社 (2006)
(2) 西嶋茂宏:電学論B,Vol.142, No.1 (2022)
(3) 秋山庸子:低温工学,Vol.55, No.3 (2020)
(4) 野口 聡:IEEE Tran. Appl. Super., Vol.31 (2022)

【電気学会論文誌B,142巻,9号,2022に掲載】

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