用語解説 第145回テーマ: 短絡試験

2023/04/07

門 裕之 〔(一財)電力中央研究所〕

1. 電力系統と短絡試験

電力系統では定常時には負荷電流が流れているが,落雷,器物接触,絶縁不良等による事故や故障が発生した場合には,地絡電流(一線地絡時)や短絡電流(二相短絡時や三相短絡時)が流れる(1)。これらの故障(事故) 電流は各種リレーにより検出され,変電所の遮断器が動作して電流が遮断される。短絡試験は,故障(事故) 電流が遮断器動作までの時間流れた時の現象を実規模で再現するものである。実際には,各電力機器に対して,事故点で故障アークが発生したときの現象再現や,事故点以外の機器に故障(事故) 電流が通電したときの現象再現である。

2. 要求される短絡電流と通電時間

(1) 日本の配電系統の場合
電力会社の系統により異なるが,配電系統で発生する短絡電流は三相短絡時で最大12.5kA,通電時間は0.4 秒とされている。なお,一線地絡電流は非接地系統のためほとんど流れない。
(2) 日本の超高圧送電系統の場合
電力会社の系統により異なるが,超高圧送電系統で発生する短絡・地絡電流は最大63kA,通電時間は数サイクル(主保護の場合)とされている。

3. 短絡発電機を用いた短絡試験

故障(事故) 電流を流す試験は,①故障点におけるアーク試験,②遮断器の遮断試験,③故障電流の通電試験に大別され,通常,短絡発電機を用いて大電力試験所で行われる。短絡時には電圧はゼロとなるので,試験電圧は回路に電流を流すことができれば良く,試験回路のインピーダンスやアーク抵抗の値で決まり,必要な場合,短絡変圧器を介して電圧が調整される。ただし,遮断器の試験の場合には,遮断と同時に極間に電圧を印加して検証する必要があり,一般的には合成短絡試験(2)が行われている。
電力を安全・安心に需要家まで送るためには,各種機器の実規模での安全検証,事故や故障が発生した場合の現象再現,事故対策の検証等が必要となるため,短絡試験の実施は重要である。

文献

(1) 用語解説「第63 回テーマ:地絡・短絡」,電学論B,Vol.136, No.6 (2016)
(2) 電気学会 電気規格調査会標準規格 JEC-2300:2020

【電気学会論文誌B,143巻,4号,2023に掲載】

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