用語解説 第146回テーマ: GX(グリーントランスフォーメーション)

2023/05/11

本多裕紀男 〔住友電気工業(株)〕

1. はじめに

GX(Green Transformation グリーントランスフォーメーション)とは,太陽光発電などのクリーンエネルギーを利用し経済社会システムや産業構造を変革して温室効果ガスの排出削減と産業競争力向上の両立を目指す概念です。

2. GX に向けた課題

地球温暖化対策の中では,「温室効果ガスの排出量と森林などによる温室効果ガスの吸収量を均衡させ排出量を実質ゼロにする」というカーボンニュートラル(CN)が定義されています。CN 実現はGX の基軸となる施策で,GX はCN を包含する概念です。
また,GX 実現にはDX(Digital Transformation デジタルトランスフォーメーション)が欠かせません。日本政府は2050 年CN を宣言しました。課題として,電力ネットワークのデジタル制御など強固なデジタルインフラの構築を挙げています。例えば,脱炭素化に欠かせない電気自動車は様々なデジタル技術を活用したDX がベースとなっていますし,電力の需要予測・最適化を図るにはAI を活用した業務フロー改善が必要になっています。

3. GX に向けた世界動向

世界では,EU 諸国をはじめとして,日本やカナダ,オーストラリアなどでGX 実現を目指す動きが広がっています。
主な海外事例では,EU が発表した「欧州グリーンディール」(1)があります。EU では「2030 年までに温室効果ガスを1990 年比で55%削減し,2050 年までに気候中立を達成する」等を主要目標として,今後10 年で1 兆ユーロの再生可能エネルギーへの投資を予定しています。
日本政府は,CN 宣言に基づき「2050 年CN に伴うグリーン成長戦略」を策定しています。主なGX 戦略としてGXリーグ(2)とGX 実行会議(3)があります。GX リーグとは,産官学が協働し,CN 時代の未来像やGX 市場のルール形成を議論し,新たな市場を創造する場です。また,自主的な排出量取引の場も提供します。GX 実行会議では,日本のエネルギー安定供給の再構築や脱炭素に向けた経済・社会,産業構造変革のロードマップが議論されています。その中で,今後10 年間で150 兆円の官民投資も議論さています。
近年は,ウクライナ情勢の影響により世界的にエネルギー需給が不安定であり,今後さらにGX の重要性は高まっていくと考えられます。

文献

(1) 駐日欧州連合代表部「欧州グリーンディール」,https://www.eeas.europa.eu/sites/default/files/jp-what_is_the_european_green_deal.pdf
(2) 経済産業省GX リーグ基本構想,https://www.meti.go.jp/policy/energy_environment/global_warming/GX-league/gxleague_concept.pdf
(2) 内閣官房GX 実行会議 第5 回資料「GX 実現に向けた基本方針(案)参考資料」,https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/gx_jikkou_kaigi/dai5/siryou2.pdf

【電気学会論文誌B,143巻,5号,2023に掲載】

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