用語解説 第155回テーマ: メタサーフェス

2024/02/02

山口 浩史 〔(株)明電舎〕

1. メタサーフェスとは

メタサーフェス( meta-surface)とは,光の波長よりも十分小さな構造体を 2次元的に配列したもので, 2011年ハーバード大 Capassoグループが初めて実証に成功した比較的新しい技術である。

光の位相・波面・偏向など様々な制御機能を持たせることができ,利用波長も電波から赤外線,可視光,さらにはテラヘルツ帯の紫外線領域に至るまで使用可能な特徴を持ち,バンドパスフィルタや小型・高効率のレンズ,反射板等,様々な分野への応用が期待されている技術である。

2. メタサーフェスの原理

メタサーフェスは,人為的に性質を変化させた物質であるメタマテリアルの一種である。メタマテリアルは,負の屈折や負の屈折率など,自然界には見られない特性を示す人工的に設計された材料のことで,メタマテリアルの人工的な構成要素であるメタアトムは,銅などのありふれた物質が用いられる。なお,メタアトムが積層された 3次元構造のものをメタマテリアルといい,それに比べてメタサーフェスはメタアトムが単層の表面構造体であり,そのためメタマテリアルより製作が容易である。

ところで光応答を考えるとき,交流の電磁波である光に対するメタアトムはアンテナとみなすことができる。アンテナは特定波長の電磁波を送受信するための電気回路であり,LCR等価回路として捉えることができる。

この LCR等価回路を適切に設計する,つまりはメタアトムの構造・形状・配向を工夫・制御することで,光や電波を任意の方向に屈折・反射させたり,位相を制御したり,特定波長を吸収したりすることが可能となる。

例えば通常,空気を通った光がガラスに入射すると,反射波とは別に透過波としての光は,角度は変えるが入射波と同じ進行方向で通過していく。ガラス部分を透過型メタサーフェスに交換して誘電率と透磁率を同時に負にすることで屈折率が負となり,透過波としての光は入射波と逆方向の「くの字」に屈折する。

3. 産業機器への応用

メタサーフェスの特徴の一つに,構造を工夫することで,特定波長を吸収できるというものがある。この特性を利用して,光学的ガス検知のセンサに応用する研究がある。

検出対象ガスに紫外線を当てると,成分ごとに異なる波長の光が発生する。このガス紫外分光波を選択的に感知できる表面ナノ構造を複数用意することで,小型で複数のガスを高感度で同時かつ連続検出が可能なセンサ,例えば回転機の絶縁劣化に起因する部分放電で発生するガス(アンモニア・オゾン・硝酸)の検知器実現が期待されている。

    

文献

(1) 富田知志:「メタマテリアルの物理」,電学誌, Vol.137, No.6, (2017)
(2) 高原淳一:「メタマテリアルで光と熱をあやつる」,生産と技術, Vol.71, No.1 (2019)
(3) 納谷昌之:「ランダム分散構造メタサーフェス」,応用物理, Vol.85, No.4 (2016)
(4) 岩見健太郎:「誘電体メタサーフェスを用いた可変焦点メタレンズ」,精密工学誌, Vol.88, No.5 (2022)

 

【電気学会論文誌B,144巻,2号,2024に掲載】

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