用語解説 第160回テーマ:脱炭素とエネルギーマネジメントシステム

2024/07/01

藤田 美和子 〔中部電力(株)〕

1. エネルギーマネジメントシステムとは

エネルギーマネジメントシステム(Energy Management System:以下EMS)とは,発電・負荷設備のエネルギー情報や関連するセンサ情報を収集し,見える化やデータ分析を行うことで,エネルギー活動を最適化するシステムの総称である。従来の制御単位は施設であったが,近年はエリア,遠隔地拠点グループ等,さまざまな規模で提供される。制御単位によって,xEMSと呼ばれ,住宅用HEMS,ビル施設用BEMS,工場用FEMS,地域用CEMSのように用いられる。EMSを導入する目的は,省エネルギーや脱炭素,エネルギーコストの低減等である。再生可能エネルギー電源による自立運転時に制御を行うEMSもある。

2. 脱炭素に向けたエネルギーリソースの変化

施設用EMSの従来の制御・監視対象は,発電機,負荷設備(空調等熱源機,産業用機器,ファン・ポンプ等),蓄熱設備等であったが,脱炭素に向けて太陽光発電や蓄電池が加わっている。さらに,再生可能エネルギー活用のため,水素利用を視野にいれたガスエンジン発電機やSOFC等燃料電池の利用,BEV(Battery Electric Vehicle)の蓄電池運用が検討され,複雑化する最適制御に関する研究・実証がされている。また,地域へ電力エネルギーと熱エネルギー(蒸気・給湯・冷暖房用冷温水)とを提供するエネルギーセンターにおいても,脱炭素を目指し,従来のボイラー,冷凍機,蓄熱設備,コジェネ発電機や廃熱利利用機器に加え,太陽光発電や蓄電設備が加わる。熱・電気エネルギーの供給手段,蓄エネルギー手段,廃熱利用による省エネルギー運用が多様になることで施設用EMSよりも,さらに最適化が難しくなる。

3. IoT・AIとクラウド化

EMSの制御対象リソース多様化と再生可能エネルギー割合が増加すると,より複雑な制御への対応が求められる。高度なマネジメントを行うために,気象情報との連携,AIによる予測や最適化計算が必須となり,IoTセンサ等と合わせてクラウド上のシステム構築が必要となる。また,今後の更なる再生可能エネルギー普及に向けて,他のEMSと連携することによるエリアの太陽光発電余剰のシェア,遠隔地とのエネルギー融通,アグリゲーションによる電力市場への調整力等の供出や,配電系統安定用のDREMS(Distributed Energy Resource Management Systems)への連携等を視野にいれた多様な目的に対応できるEMSの構築が求められる。

 

【電気学会論文誌B,144巻,7号,2024に掲載】

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