用語解説 第162回テーマ:合成試験とアーク延長

2024/09/01

門 裕之 〔(一財)電力中央研究所〕

1. 遮断器の短絡試験(1)(2)

遮断器は,電力系統の系統電圧が印加された状態で遮断・投入の動作を行うことから,形式試験では事故電流を遮断・投入することが要求されている(ここでは,遮断試験について説明する)。遮断性能を満足していることを確認する試験では,事故電流を流すため,短絡発電機を用いて試験が行われる。しかし,短絡発電機と短絡変圧器を電源とした検証(直接試験)には設備上の限界があり,電圧の高い遮断器の試験の場合は,遮断電流は電流源回路である短絡発電機で供給するが,回復電圧は別に用意した電圧源回路から,電流遮断と同時に極間に電圧を印加する合成試験が行われる

2. 合成試験

合成試験の試験回路として,電流重畳法と電圧重畳法等があるが,ここでは実系統との等価性が最も高いとされる電流重畳法について解説する。電流重畳法の試験回路では,電圧源回路のコンデンサとリアクトルのLC 共振電流が,供試遮断器極間に流れる商用周波電流ゼロ点直前に重ね合わされ,これが遮断されると供試器極間に電圧源回路による回復電圧が立ち上がる。電圧源回路側の電流波形は商用周波側の電流波形と特性(電流ゼロ点におけるdi/dt等)が一致するように調整される。また,回復電圧期間は電圧源回路側の電流が電流源回路(発電機)側に流れないように補助遮断器を用いて電流源回路を切り離す。

3. アーク延長

遮断時に供試遮断器の接触子が開いて電流を遮断するまではアークが発生し,その時間(アーク時間)は,高電圧遮断器では数十ミリ秒になる。系統電圧が課電された回路での遮断では電流の極性が反転してもアークは継続するが,合成試験における電流源回路から課電される電圧は系統電圧に比べて低いため,半サイクル以上のアーク時間の遮断試験においては,電流がゼロ点をよぎり極性が反転する際にアークが消弧してしまう。このため,合成試験ではその瞬間にアーク延長用のパルス的な電流を供給することにより電流源と電圧源を合成する時刻よりも前の電流ゼロ点でアークが消弧しないようにしている。これがアーク延長で,遮断器のアーク時間中に,電流極性が反転する複数回分の電流パルスを印加する場合もある。

4. 電流ゼロ点の検出

合成試験の回路を構成し,商用周波電流の電流ゼロ点直前で電圧源回路を重畳したり,アーク延長をかけるためには,遮断前に流れる短時間の試験電流から電流のゼロ点を予測する必要がある。この電流ゼロ点検出器には大電力試験所毎に蓄積されたノウハウが用いられている。

文献

(1) 電気学会 電気規格調査会標準規格 JEC-2300:2020
(2) 電気学会誌Vol. 143, No. 4 付録 (2023), 用語解説 第145 回テーマ:短絡試験

【電気学会論文誌B,144巻,9号,2024に掲載】

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