用語解説 第164回テーマ:マルチエージェント
2024/11/06
安芸 裕久〔筑波大学 システム情報系〕
1. マルチエージェントとは
エージェントは,システムの構成要素の一種であり,自律的に意思決定して行動する。外部環境や自身の経験に基づいて行動を決定し,その行動は外部環境に何らかの影響を与える。従って,エージェントと外部環境とは相互作用を行う。複数のエージェントが存在するシステムをマルチエージェントシステムと呼ぶ。エージェントは,ネットワークを通じて移動することも可能であり,そのような機能をもったものをモバイルエージェントと呼ぶ。エージェントは,より優れた意思決定が行えるように経験から学習を行うよう設計されることが多い。学習手段として機械学習や遺伝子アルゴリズムなど進化型計算がよく用いられる。
2. 電力工学分野への応用
電力工学分野でもマルチエージェントシステムを用いた研究は数多く実施されており,B部門誌においても1998年以来,多くの論文が発表されてきた(1)。
適用例として,電力取引に参加する多数のプレーヤーを想定したマルチエージェントシミュレーションを行う例がある。プレーヤーとして発電事業者や分散型リソース運用者を想定したエージェントモデルを構築し,機械学習等による行動決定アルゴリズムを実装してシミュレーションが行われる。各プレーヤーの最適行動や相互作用を調べたり,系統運用への示唆を得ようとする取り組みである。
配電系統運用に関する研究への適用例としては,事故が発生した際に,事故点または近傍のエージェントによって事故の把握と復旧を自律的に行おうという取り組みや,エージェントが配電系統の調相コンデンサや変圧器タップの制御を行うことで電圧制御を行うという取り組みがある。各配電所にエージェントが常駐するほか,配電所間をモバイルエージェントが移動することで,協調制御を図るという提案もある。
3. おわりに
マルチエージェントシミュレーションは,複雑化が進む電力系統を対象とした研究において強力なツールであり,今後も一層重要になっていくだろう。
文献
(1) 永田 武:「マルチエージェント技術の電力システムへの適用研究事例」,電学論B,Vol. 125, No. 3, pp. 255-258 (2005)