用語解説 第166回テーマ:Data-Driven Weather Forecasting
2025/01/07

野原 大輔〔(一財)電力中央研究所〕
1. 機械学習を用いた天気予報の台頭
天気予報は,気象予報モデル(1)に,気象観測衛星や様々な地点での気象観測データを元に作成した初期値を入力して,コンピュータで計算して作成される。その予報精度は,気象学の発展とともに,気象予報モデルの高度化,気象観測網の整備,コンピュータの高速化などにより,徐々に向上してきた(2)。
一方,近年話題となっているAIの大波は天気予報の世界にも押し寄せている。気象予報モデルを利用せずに天気予報を実現するData-Driven Weather Forecasting(直訳すると「データ駆動型天気予報」であるが,わかりやすさの観点から「AI天気予報」とする)が幾つか提案され,条件によっては気象予報モデルを用いた場合よりも予報精度が高い結果も得られるようになった(3)(4)。AI天気予報は,計算コストの面でも大変優れており,天気予報でのゲームチェンジャーとなる可能性がある。
2. AI天気予報
AI天気予報の予報モデルは, GraphCast(3)やPanguWeather(4)といった機械学習手法を用いて,気象再解析データを学習させることで構築される。気象再解析データとは,気圧や気温などの気象観測データを,気象予報モデルが再現する大気の状態に馴染ませて作成した力学的な整合性がとれているデータのことである。気象再解析データは,気象要素ごとに,全球3次元格子(水平数十km,鉛直数十層),数時間間隔で過去半世紀以上の蓄積があるため,機械学習用のビックデータとして利便性が高い。また,機械学習手法にも大気の力学的な整合性を表現するための時間的・空間的な大気の相互影響を考慮した設計が施されている。学習済みの予報モデルに初期値を入力することで,数日先の大気の状態を推定することができる。台風や低気圧の進路や発達も精度高く予報できるため,ヨーロッパ中期予報センターではAI天気予報の試験運用を実施している(5)。
3. 今後の展望
今後,AI天気予報の精度は機械学習手法の発展とともにさらに向上することが想定される。しかしながら,予報精度向上には,気象再解析データの作成に用いる気象予報モデルの高度化や,継続した気象観測も必要となる。天気予報の主役がAI天気予報に代わったとしても,予測精度向上には気象学の発展が不可欠であることは変わらないだろう。
文献
(1) 大竹秀明:「気象予報モデル(数値予報モデル)」,電学論B用語解説, Vol.138 (2018)
(2) P. Bauer, et al. : “The quiet revolution of numerical weather prediction”, Nature, Vol.525, pp.47-55 (2015)
(3) R. Lam, et al. : “Learning skillful medium-range global weather forecasting”, Science, Vol.382, pp.1416-1421 (2023)
(4) K. Bi, et al. : “Accurate medium-range global weather forecasting with 3D neural networks”, Nature, Vol.619, pp.533-538 (2023)
(5) https://charts.ecmwf.int/?query=GRAPHCAST