用語解説 第169回テーマ:Power to Gas (P2G)
2025/04/02

中村 勇太〔名古屋工業大学〕
1. P2Gとは
風力や太陽光発電などの自然変動電源の大量導入により,電力系統内の電力余剰や系統周波数の不安定化が深刻になることが懸念されている。P2Gは水の電気分解によって,電力を水素に代表される気体燃料に変換する技術のことを示すが,最近では電力系統の需給調整力提供や余剰電力活用する技術として期待されている。エネルギーの観点から見た水素の特徴として,①豊富なエネルギー源であり,再生可能エネルギー源を含む,様々な資源から生成可能 ②大量・長期間保存・長距離輸送が可能 ③エネルギー利用時に大気汚染物質を排出しない,などが挙げられる。
2. 水素関連の政策と国内の主な取組
気候変動問題の解決に向けた「2050年カーボンニュートラル」といった目標が掲げられているが,P2Gはこの目標を達成するために不可欠な技術とされている。日本は世界に先駆けて策定した「水素基本戦略」では,2030年までに供給量300万t・水素コスト30円/Nm3,2040年までに供給量1,200万t,などの政府目標が掲げられている。近年では欧州を中心に,海外でも水素戦略が発表されはじめ,水素社会の実現に向けた動きが活発化している(1)。
国内におけるP2Gの取組として,福島県浪江町ではアルカリ型水電解装置システムの水素製造性能評価および需給調整力提供に関する制御性の検証が行われている。また山梨県甲府市では, 固体高分子(Polymer Electrolyte Membrane:PEM)型水電解装置システムの制御性や経済性に関する実証が進められている。
3. P2G普及に向けた課題
P2G を普及させるためには,水素コストの低減が課題であり,課題解決のために水電解装置の大容量化・高効率化といった技術革新に加えて,電力需給市場への参入による付加価値向上などが検討されている。水素需要は今後,産業・モビリティ・発電分野を中心に伸びるとされているが,その需要に対して適切に供給できるように,水素輸送や水素ステーション,水素貯蔵など,水素サプライチェーン構築に向けた技術開発も課題とされる(2)。
文献
(1) 資源エネルギー庁:「水素を取り巻く国内外情勢と水素政策の現状について」(2024)
(2) 資源エネルギー庁:「水素社会実現に向けた社会実装モデルについて」(2021)