用語解説 第174回テーマ:短絡容量
2025/09/01

小出 明〔東京電機大学〕
1. はじめに
短絡容量(1)(SCC:Short Circuit Capacity)は,遮断器の容量を見積もる際に重要な指標ではあるが,電力系統の強度(System Strength)および電圧維持能力を測る指標としても活用されている。特に,火力発電機の休廃止が進展し,短絡容量が減少した電力系統(特に短絡容量比が3 未満の弱い系統)では,インバータ連系する電源や設備への影響が懸念(2)(3)されている。本解説では,短絡容量について説明後,近年注目されている短絡容量比についても解説する。
2. 短絡容量
短絡容量SCC [MVA] は,(1)式の三相短絡時の交流分短絡電流を用いて(2)式のように算出(1)できる。
ただし,
3. 短絡容量比
(3)式に示すようにインバータ電源の定格出力と短絡容量の比は,短絡容量比(SCR:Short Circuit Ratio)と呼ばれている。
また,(3)式は単一のインバータ電源を対象とした指標であるが,複数のインバータ電源を考慮したSCR(Equipment circuit-based SCR やWeighted SCR,Composite SCR(3)など)や無効電力制御量を考慮したEffective SCR(ESCR)など,(3)式よりも実態を反映したSCR も用いられている。特に,(4)式に示すEffective SCR(4)は,直流高圧送電(HVDC:High Voltage Direct Current)にとって重要な指標となる。
ただし,
なお,SCR,ESCR の目安は参考文献によって異なるが,文献(5)では両者ともに,3 未満の場合はLow,特に2 以下はVery Low と分類されている。なお,このような短絡容量比が小さい系統にインバータ電源が連系した場合,PLL(Phase Locked Loop)の制御が出力電流の影響を受けて不安定になることや,動的な高電圧(Dynamic High Voltage),電圧不安定性,高調波共振,電圧フリッカー発生のリスクが上昇する(4)ため対策が必要となる。
文献
(1) 電気学会:電気工学ハンドブック (第6 版) (2001)
(2) North American Electric Reliability Corporation: “Short-Circuit Modeling and System Strength”, White Paper (2018)
(3) National Grid ESO : “Provision of Short Circuit Level Data” (2022)
(4) P. Kunder : Power System Stability and Control, McGrawHill (2006)
(5) American National Standard : “IEEE Guide for Planning DC Links Terminating at AC Locations Having Low Short-Circuit Capacities”, IEEE Std 1204-1997 (R2003) (2003)