用語解説 第176回テーマ:交直変換器用変圧器

2025/11/01

中村 信 〔(一財)電力中央研究所〕

1. 交直変換器用変圧器とは

交直変換所において,サイリスタやIGBT 等で構成される変換素子と交流系統を接続するための変圧器を「交直変換器用変圧器」と呼ぶ(図1)。この変圧器は,交流電圧を変換素子の運転に適した電圧に調整する。交流系統内にある一般的な電力用変圧器(交流用変圧器)とは異なり,交直変換用変圧器の巻線は,変換素子と接続された巻線(変換器側巻線)に,交流電圧に加えて,直流電圧,直流電圧の極性を反転した電圧(極性反転電圧)等,様々な電圧が発生する(1)。このため,交直変換器用変圧器の耐電圧試験の規格(2)では,交流電圧や雷・開閉インパルス電圧だけではなく,直流電圧や極性反転電圧といった交直変換用変圧器特有の耐電圧試験が規定されている。

図1 交直変換所の主な構成(他励式変換器の場合)

2. 交直変換器用変圧器の設計

交流用変圧器と異なり,交直変換器用変圧器の設計では,直流絶縁,直流偏磁,及び高調波電流の影響が考慮されている。
(1) 直流絶縁  巻線の絶縁は絶縁油と油浸紙で構成された複合絶縁である。油浸紙の抵抗率は絶縁油に比べて高く,絶縁油の比誘電率は油浸紙に対して低いため,直流電圧は主に油浸紙に,交流電圧やインパルス電圧は主に絶縁油に発生する。高い直流電圧が発生する交直変換器用変圧器の絶縁では,油浸紙の厚さを増やした設計がなされている。
(2) 直流偏磁  サイリスタの点弧角のばらつきにより,変換器側巻線に流れる電流は直流成分を含む。このため,鉄心が直流偏磁される。これに対しては,点弧角のばらつきから計算される偏磁量の基づいた鉄心の設計で対処されている。
(3) 高調波電流  変換器側巻線の電流波形は高調波成分を含むため,渦電流損や浮遊負荷損による加熱や騒音の増加がある。冷却の強化や防音タンクによる対処がなされている。

【電気学会論文誌B,145巻,11号,2025に掲載】

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