座談会:主旨説明

2023/10/30

コーディネータ 蘆立 修一(東電記念財団)

 本日の座談会の主旨を5分程度でご説明いたします。
 2050年カーボンニュートラルの社会では、産業界あるいは民生において電化が相当進展していることが想定されます。このような状況下では、電力の安定供給のもと、カーボンニュートラルを支える社会インフラである電力システムが社会コストミニマムで実現されていることが必要となります。そのためには、電力の供給側と電力を使う需要家側が一体となった電力システムを構築する必要があります。本日の座談会では多様化する電気の価値から、将来の電力システムについて、電力の供給者側の視点と需要家側からの両方の視点から考えてみたいと思います。

 この図は供給者側からみた電気の価値を示しています。横軸に時間軸をとって、時間軸の長い方からkWh価値に加え、kW、ΔkW価値を示しています。また縦軸には、その各々の時間に対応する電源や発電設備を記載しています。原子力、火力、水力、太陽光、風力、さらに地域間連系線や蓄電池、水素も記載しました。各電源が提供できる時間帯を、(1)超長周期変動(年、季節)、(2)長周期変動、(3)短周期変動、(4)超短周期変動の時間軸で整理すると、電源毎に提供できる『電気の価値』は異なることがわかります。

 この図は、需要家側からみた「電気の価値」です。需要家側からの価値は、基本的にはkWhとしての価値です。kWh価値ひとつをとっても、医療用として、例えば、人工透析をなさる方にとっては、電力の安定供給は必須ですが、一方、お湯を沸かすヒートポンプでしたら、余剰電力などでいつ沸かしてもその機能を果たすことができます。電気をお使いいただく需要家の事情や時間によって、電気の価値が変わることがわかります。

 今回、需要家側からの視点から、蓄電池を含む電気自動車(EV)を取り上げました。この図は、EVを中心とした電気の取引を纏めたものです。本日のご講演にもあるとおり、現状ビジネスとしての成立性は厳しい状況にあります。EVは、電力の供給側からみるとEV普及時には電力システムに大きな影響を与えることからその対策が必要となりますが、EVをうまく活用することでその影響を回避できることが期待されます。そのためにはEV所有者の行動変容が必要と考えられます。また、現在の電力システムは電気の需要に合わせて電気が不足することがないように供給設備を増やしてきた歴史があり、今後は需要家側からの視点も織り込んだ新たな電力システムの設計・構築が必要となります。

 本座談会では、研究・イノベーション学会に所属する先生方にご登壇いただいていることを踏まえ、イノベーションをキーワードに、「課題をみつける」を共有したいと思います。こうした議論をするにあたり、山口周氏の著書「ニュータイプの時代」を参考にしました。「他学会と協働で作り上げる」は、原著の「素人・若造を活かす」を当方で「他学会と協働で作り上げる」に修正しました。「意味がある」は、Z世代の意識・行動のベースとなっていると言われていることから、パネル討論の論点のひとつであるEV保有者の行動変容にも繋がる視点です。

 本日の座談会では、主に電力の供給者側としての電気学会側からの発表に対して、研究・イノベーション学会にご所属の先生方より政策視点・消費者視点さらには社会科学的な視点から、ご意見をいただきます。
 第一部では電気学会側から3名の先生方に、各20分でご講演いただきます。その後、その内容に対して研究・イノベーション学会の3名の先生方からコメント、ご意見を各10分でいただきます。その後、休憩をはさみ第2部のパネル討論では、3つの論点からさらにご議論をいただきます。論点の一つ目は、「電気自動車が電力系統にもたらすもの、電気自動車の保有者の行動変容をもたらすもの」、二つ目は「消費者視点から将来の電力システムへの要望」、三つ目は「電気学会における社会科学の必要性と期待」としました。どうぞよろしくお願いします。