座談会:講演2 電気自動車,再エネの普及拡大による電力システムへのインパクトと対策

2023/10/30

下村 公彦(中部電力パワーグリッド)

 中部電力パワーグリットの下村です。私は電力会社に入りまして、30年以上過ぎようとしています。入社してから長らくは天気の良い日は電気をたくさんお使いいただけるので、どうやって発電機を用意しようかという心配をしたものです。しかし昨今では、太陽光や風力の導入が進みまして、天気のいい日には、いかに発電機を絞ろうかという心配に変りつつあります。今日はそのような話からさせて頂きます。

 これは電力系統を取り巻く環境変化を表したものです。震災前、再エネが多く導入される前の状況です。電源は主に大型電源で、50万V、27万5千Vの大変高い電圧の基幹系統があって、大型電源がつながっています。そこで発電された電気は、15万4千V、7万V、または3万V、2万Vというような特別高圧からなる需要地系統のお客様の負荷を配りながら、この下の6600Vの配電系統における高圧のお客様、さらに低圧となる一般家庭のお客様に供給されていきます。この図でお分かりのように、電気は基幹系統から需要地系統を通って配電系統へと下る潮流で、ダウン潮流と呼んでいます。これは震災前の系統です。
 右の図は、夏・冬の電気が多く使われる重負荷期の一日の需要変化を表わしています。赤い線の総需要に合わせて発電機を用意していることを表しています。ベース電源と呼ばれる一定の出力の電源があり、その支えの元に、LNG火力で発電を大きく調整をします。さらにこの日中の一番電気の使われる時間帯に、ピークと呼ばれる石油火力や揚水発電を用意していました。

 一方、これは震災以降、現在の状態です。FIT(再生可能エネルギー固定価格買取制度)の導入により、太陽光が配電系統や需要地系統に多く入ってきました。太陽光が多く入ってきたことによって、基幹系統の電源から需要地系統へ流れる従来とは逆の、配電系統から需要地系統に流れるアップ潮流、もしくは逆潮流と呼ばれる状態が現れています。7万Vから6600Vに電圧を変える配電用変電所において、中部エリアの例では、配電線の3割、変圧器の4割が、時期によってアップ潮流になる状態となっています。
 右の図、先ほどは重負荷期でしたが、これは春、太陽光の出力が一年で一番大きくなる時期の需要変化を示しています。ここに緑色で示した再エネが入ってきました。この再エネに合わせて火力を絞る段階に入っております。さらに赤い線で示す総需要を、再エネを含めた発電量が超過する場合は、揚水発電を動力負荷として昼間に水をくみ上げています。これは大きな変化でして、先ほど申し上げましたように、私が入社した時にはこうしたことは全く想像していませんでした。揚水動力等の対策をしても太陽光が多くなってしまう場合は、大変心苦しいのですが、再エネの発電抑制をしていただく状況になっています。

 こちらは2011年から22年までの日本の各エリアにおける再エネ導入の傾向を表したものです。中部エリアにおきましては、最小需要に対して110万kW程度超過致しまして、今年4月8日に初めて、先ほど申し上げた再エネの発電抑制を実施しました。全国では東京エリアのみが、まだ再エネの発電抑制をしていない状況です。

 再エネの大量導入に伴う系統の課題は何だろうかと言うことを申し上げたいと思います。まず大きくマクロの面で捕らえますと、新しく入った再エネも含めて、需給バランスの調整をどう行っていくかと言うことが大きな課題となります。電気という材を改めて振り返りますと、電気を使う商品は、例えば周波数の正確性に大きく依存しているものが多いと思います。電気に求められておりますのは、やはり正確性というものが非常に大事で、電気の商品としての価値を作っています。日本における周波数は、ご存じのとおり東側が50Hz、西側が60Hzとなっています。50Hz側の東京と60Hz側の中部との間を直流で結ぶことによって、全国エリアがつながっています。50Hz、60Hz全国合わせて、需給バランスの調整を行い、経済性を追求しています。これは、ある意味、スマート化が進展してきたものであると考えられます。

 再エネが大量に入ってきたときの電力系統の課題について、局所的に生じる問題が二つ挙げられます。一つは、配電線に太陽光が入ってきますと、以前は負荷によるダウン潮流では設備容量が足りていたところで、再エネによって設備容量を超過し設備増強しなければいけないということがあります。もう一つは、再エネから配電用変電所に向かって配電線にアップ潮流が流れますと、配電線の末端の方で電圧が上がり、この電圧を上限以内に抑えるための設備対策が生じます。
こうした課題を解決するために太陽光に対してどのような対策が考えられるかということになります。太陽光は日によって発電量が大きく変わります。この変動する発電に対して、都合の良い時間帯に負荷をつけられないかという発想が出てきます。

 その負荷としては、3つが考えられます。エコキュート、エネファーム、そして今回トピックスとなっている電気自動車EVです。それぞれの特徴があり、負荷として調整力の発揮が期待されています。中でも、電気自動車EVに関しては導入量の見込みの多さ、エネファームもそうなんですけれども、充電・放電が可能であるということ、さらに自動車ですので需要場所を変更できること等が挙げられます。国の検討会においては、需給調整市場におけるアグリゲーションコーディネータとしての年間収益を試算した結果の多さからも電気自動車に対する期待が高まっています。

 電気自動車に関しては、政府の目標もありまして、2035年には新車のすべてを電動車にするという目標があります。少し非現実的かもしれませんが、21年度末における国内の自動車が仮に全て電気自動車に置き変わったとした場合、どのぐらいの電気量になるかを試算したのが右のグラフで、赤い線は一日あたりの全国年間最大総需要を示しています。全国の自動車がEVになると、1日に電気を使う量のおよそ85%程度のポテンシャルを持っていることになりますので、かなりの量が期待できると思っています。

 EVに期待していることを挙げますと、先ほど説明しましたように、揚水動力で負荷を作っていた時間帯にEVの充電をすることによってさらに負荷をつけてあげることです。そうしますと再エネの抑制を回避できます。また、増強しなければいけない配電線において、例えば夕方充電していたものを昼間のタイミングにシフトしていただく。こうして負荷をつけることによって、設備容量の超過を抑えることができます。電圧に関しても、配電線で問題が出てくるようなところでEV充電をしていただければ、電圧を抑えることができる。ここまでは日常的な効果を期待したものです。
 一番右はレジリエンス対応を示しています。非常災害時に電気自動車をうまく使えないかという期待です。例えば、災害で停電したエリアがあるとした場合に、電気自動車をお持ちの自治体さんや企業さんに配車していただいて、この停電エリアの中でEVを放電して負荷に送るという期待があります。

 このような期待と裏腹に、EVの普及拡大による懸念もあります。例えば一番心配していますのは、急速充電器、さらに今後開発や導入が進むといわれている超急速充電器です。これが都市部のような負荷しかない配電系統エリアに設置されて、同じ系統内でこのように急速充電器が同時に複数台使われますと、やはり容量超過の問題が発生する懸念があります。これに伴って電圧低下と言う問題も出てきます。

 これに関してはEVの移動体としての特性をうまく使えないかというアイデアがあります。例えば、配電線Aで系統混雑があるとします。系統のどこが詰まっていて、どういうところであれば良いですよ、というようなものを価格シグナルとして発信することができれば、右側の図のように、「ここでは充電をやめてください」「こちらは安いですよ」というシグナルによって、望ましくない地点から、望ましい地点へ誘導することができないかというアイデアです。

 2023年5月、EVと電力システムの統合について、関連する業界が議論する場としてEVグリッドワーキングが発足し、EVの利活用に関する検討を実施し始めました。

 こちらでEVを電力システムにいかに融合させていくかということを考えた中部電力パワーグリッドの取り組みを紹介します。先ほど申し上げましたように、大型電源、基幹系統、さらに需要地系統があり、需給バランスのシステムがあります。また、皆様ご存知かと思いますけれども、スマートメータによって需要家の皆様の情報が30分単位で自動的に集まるようになっています。次世代では、5分間隔でデータが集まるシステムを配備して行きますので、この大量のデータを扱う配電系統システムがあります。また、太陽光や風力に対して出力をどう調整してほしいという再エネ出力制御システムがあります。これらのシステムがお互いに影響し合うことになりますので、これらのシステム間で情報連携を行い、各システムの目的にかなうようにバランスをとりつつ系統混雑を緩和し、全体的な最適制御を行うべきと考えています。

 こちらでは、当社のカーボンニュートラルを目指し、データプラットフォームを構築しようという取り組みを紹介させていただきます。一番下にありますこの緑色は、実系統、実際の設備が置かれているレイヤーとお考えください。フィジカルレイヤーと呼んでおりますけれども、これまでは、まさにこの物理的な設備のデータだけに注目しておりました。現在は、取得できるデータが広がってきました。例えば使われる電気量、この設備が置かれている位置情報、さらに設備を保守する観点での自然のデータである気温や設備温度、そういうデータをすべてこの青いサイバーレイヤーに組み上げます。それらをクロスリンクさせデータ同士で考える。さらに外部データで有効なものがあれば、それらも取り込んで、サイバーレイヤーの中で様々なデータを集約し,お客様のニーズに沿った新たな価値を見出していきたいと考えております。これによってエネルギーのプラットフォームの高度化とか、例えばドローンへの新しい対応とか、新サービスに繋げていけないか?というようなことを考えています。この電気自動車に関しても、このようなプラットフォームの中で考えていければと思っております。

 まとめです。再エネ導入による系統の変化からEVに期待することを申し上げてきました。今後ますます地域ごとの電力系統や、個々に対する観点が強くなるなど、地域や個々というものにシフトしていくと考えています。これはバリエーションが広がり複雑化するということになります。こうした時、様々な社会システムと連携して、社会としての全体最適を実現する新たな仕組みが求められていくと思います。そのためには、技術サイドと社会科学サイドの協力が不可欠であり、学会であれば、電気学会と研究・イノベーション学会が共同でやっていくというようなことが求められているのではないかと思います。
 一例として書きましたけれども、われわれの技術的な観点だけでは、社会的に見えないもの、また見ることが困難なものがあると思います。そういうものを研究・イノベーション学会の先生方から今日、ご意見を賜れればと考えています。
わたくしの発表は以上です。ありがとうございました。