座談会:講演6 政策視点・消費者視点からのコメント3(EV普及に伴う電力インフラへの懸念事項)

2023/10/30

鈴木 薫(ブリヂストン)

 ブリヂストンの鈴木です。私は、ブリヂストンのCEO直下のグローバル経営戦略部門におりましてM&A、VC(Venture Capital)ファンド投資、スタートアップのマイノリティ出資といったことをやっております。このほか、東北大学医学部の学生に向けたビジネスメンター、私自身が創業した会社で経営戦略のコンサルティングをやっております。ブリヂストンという会社は面白くて久留米で創業したのですけども、創業時の工場の従業員のほとんどが半農だったので、サイドビジネスを禁止するとほとんどの人たちが農業をやめなきゃいけないということで、創業当時から副業OKという企業体質でございます。

 さて、私は実際的な話をさせていただきます。まず、日本におけるEVの普及状況です。乗用車に占める電動車の販売比率は2010年から徐々に上昇していますが、2022年でハイブリッド車は約50%に対して、EVはまだ1.4%という普及率は低い状況です。イノベーションの普及曲線とキャズム理論についてお話をさせていただきます。EVの普及は1.4%ということですので、導入初期のステージです。本格的に普及といえるためには、市場全体の16%ぐらいまで普及して、アーリーマジョリティと言われている層への普及が必要と言われています。そのためには、16%というところにキャズムがあり、ここをいかに超えられるということが注目されることになります。16%以上普及してくればEVの本格普及ということになります。

 ここに各国の電動化の目標を示しています。日本は2030年では、EVとPHEV合わせて20~30%という目標があり、2035年までに100%の普及という目標を設定してきました。ただし、これはEVだけではなくてハイブリッド車も含めるということですので、この中でEVがどのくらい普及するかとところは、現在の普及率を見ると、結構ハードルが高いと思います。
 イノベーションの普及理論から16%のキャズムを超えてくる時にそのイノベーションの普及速度がどういう観点で決定されるかという要因については以下の項目が考えられます。相対的優位性においては、既存製品に比べて優位勢が分かりやすい事とされています。EVはガソリン車に比べてCO2の削減効果などの優位性は割とわかりやすいと考えます。両立性においては、既存製品であるガソリン車両と類似性がありこれを利用しながらEVにシフトする両立性が考えられます。複雑性においてはEVそのものが理解できないことはなく、簡便にユーザーに取り扱えるようなものと考えます。試行可能性においては、本格導入前に試行しながら効果を確認できる状況と考えます。また、観察可能性についてはガソリン車に比べて導入効果を自主的に判断できると考えます。こうしたキャズムを超えて爆発的普及するという意味でのベーシックな項目は、EVに関しては意外と満たされていると言えます。政府が提唱する電動化目標は順調にいけば、EVの視点から見ると、その普及自体それほど大きな支障はないと考えられます。

 EVの普及にあたって単純に導入されるというものではなく、先ほどから議論になっている充電インフラの構築が、どうしても必要になります。ガソリン車のガソリンスタンドと比較をしてみます。ガソリンスタンドは、全国に2万8千カ所以上ありますが、充電スタンドは2万カ所です。数字の上では7割ぐらいになっておりますけれども、実質のその1カ所の充電スタンドで充電できるEVの車の数は、ガソリンスタンドに比べると相当少ないので、やはり今後も数を増やして引く必要があります。政府のグリーン成長戦略として、「2030年までに公共用の急速充電器3万基を含む充電インフラを15万基まで広げていく」とことですので、この政策が順調に進んで15万カ所の充電インフラが整備されれば、インフラ構築という点においてはEVの普及が進むと考えます。
 この充電設備を設置するにあたって懸念も考えられます。先ほどもありましたけれども、普及したEVが一斉に充電を始めた時に、電力不足といったことになる懸念はないのか。充電ステーションが全国各地に設置された時に、地域への給電を含め安定的な電力供給に支障はないのか。さらに、都市部のマンションのような集合住宅での充電設備をどうするのか、といった問題が懸念されます。また、EVを所有している人たちの懸念としは、バッテリーの耐用年数の問題があります。充放電を繰り返すことで、寿命が短くなることや買い替え需要が発生する、そういった事象が社会問題化するのではないかということが懸念されます。

 EVを保有している人が、どのように行動変容するかという問題があります。これについては、一例としてプロスペクト理論という行動心理学があります。「人は損失を回避する計画があり、状況によってその判断が変わる」というもので、自分の利益、満足度によってどのように行動が変わっていくかという意思決定理論になります。このことを、満足・不満足、利益・損益という軸で示した価値関数で説明します。EV所有者の本来の目的は、自由で安価・安全で快適に自分個人が移動するためにEVを保有しています。それ以外の目的の利用は、本来の目的の阻害要因であり損益となりユーザーの不満が高まっていくことになります。これをいかに回避するかということが必要になります。このためには、本来の目的以外の利用で所有者に利益があるとみなされる利用によって満足度を上げることができます。それは何か対価や利益を得られるとか、自分が社会参加しているなどといったことが満足度向上に繋がっていくと考えます。他の目的でEVを活用することで、予期せぬ資産の劣化が発生したり、EVから電力を供給している間は車両が使えない、これらのために必要な設備投資が必要になる、などはネガティブになってしまいます。そういった状況をいかに払拭していくかということが必要になります。EV所有者が電力需要を支えるために何らかの社会貢献をするための不平等感の払拭や、公共利用に対する価値に訴求すること、個人に対する利益や便益の提供といったことが必要になってくるのではないかと考えます。私からは以上です。ありがとうございました。