用語解説 第184回テーマ:N-1基準
2026/07/01
黒田 英佑 〔(株)日立製作所〕
1. N-1基準とは
N-1(エヌマイナスイチ/ワン)基準とは,系統信頼度を確保するための基本指針であり,発電機・送電線・変圧器など電力網のN個の主要設備のうち任意の1つが故障等で喪失しても,残りの設備によって電力供給を維持できるようにする設備形成の考え方である(1)。1960年代の北米大停電を契機に,単一設備故障に起因する連鎖停電のリスクが国際的に認識され,これに対処するための考え方として,その後N-1基準(N-1 criterion)が確立され,現在では各国の標準的な信頼度基準として採用されている。
2. 活用例と今後について
基幹・ローカル系統ではN-1基準を満たすように設計され,送電線の多重化や予備電源確保による冗長性を備える。より重要な設備ではN-2基準が採用され,近年の自然災害などのN-x事象へ備える場合もある(2)。一方,配電系統では経済性の制約からN-0基準で設備形成し,短時間の停電を許容し速やかな復旧で対応することが多い。北米NERCの信頼性基準TPL-001-5.1では送電系統計画の評価事象としてSingle Contingency(N-1)と N-2,N-1-1相当事象のMultiple Contingency が考慮され(3),欧州 ENTSO-Eの運用規則EU 2017/1485ではN-1とExceptional Contingency(N-1を超える例外事象)が考慮される(4)。また,日本ではN-1 基準で確保した空き容量を活用するN-1電制もある。再エネ導入拡大に伴う不確実性増大に対処するため,欧州のGARPURプロジェクトでは,確率論的リスク評価に基づく信頼度基準が提案された(5)。この基準は,設備形成に限らず,設備管理や運用設計にも適用される点に特徴がある。現状ではN-1基準が主流であるが,今後はN-1を基盤としつつリスク評価を組み合わせることで,信頼性と経済性の両立が模索されている。ただし,確率論的手法の導入にあたっては,計算負荷や実務適用における複雑さなどの課題も多く,本格的な採用に向けて今後の研究開発が期待される。
文献
(1) 電気学会:電気工学ハンドブック(第7版),オーム社 (2013)
(2) 電力広域的運営推進機関:平成30年北海道胆振東部地震に伴う大規模停電に関する検証委員会最終報告(本文)(2018)
(3) NERC: TPL-001-5.1 Transmission System Planning Performance Requirements
(4) ENTSO-E: SOGL (Commission Regulation (EU) 2017/1485)
(5) SINTEF Energy Research : “GARPUR Project”,https://www.sintef.no/en/projects/2013/garpur/ (2026年 3月25日閲覧)